野村敏明
信濃川下流底質コアを用いた多環芳香族炭化水類(PAHs)汚染歴の把握
藤田昌一,小松俊哉, 姫野修司
多環芳香族炭化水素類(以下:PAHs)は発がん性等の毒性が疑われているにも関わらず、現在の日本では環境基準・規制が設けられていない。PAHsは多岐に渡る発生源から排出されているが、最終的には水環境中の底質に蓄積しているため、底質は時空間的な変動を受けない環境全体の長期的汚染指標として捉えることができる。また、各種発生源からのPAHs組成(以後:プロファイル)は異なることが報告されており、底質中のPAHsプロファイルは発生源情報を含む重要な指標である。
そこで、本研究では信濃川の下流域における底質を柱状(コア)に採取し、これまでにほとんど測定されていない物質を含め38種類のPAHsを測定することにより、詳細なPAHs汚染歴の把握を行い、過去から現在にかけてのPAHs発生源の変化を検討した。また、信濃川SS、道路粉塵および大気とのPAHsプロファイルの比較を行い、各種環境媒体の底質へのPAHs汚染の寄与を推察した。
信濃川下流域の底質のPAHs汚染レベルは既往の都市域の閉鎖系水域の報告と同程度かそれ以上であることから、地方のPAHs汚染についても調査・モニタリングを行なう必要性が確認された。また、底質コアにおける深度方向のPAHsプロファイルは変化しておらず、底質中でのPAHs分解はほとんど起こっていないことが示唆された。PAHs発生源に関しては、表層底質すなわち近年のPAHs汚染は河川水中SSや道路粉塵、大気といった環境媒体からの影響が大きいことが分かった。したがって、環境全体に放出されるPAHsについてもこれらの影響が大きい可能性が示唆された。しかし、発生源対策に直接繋がる知見を得るために事業所排ガス、自動車排ガスといった細分化した各種発生源からの底質への寄与について詳細な調査が必要である。