工藤恭平

稲わらの高効率メタン発酵を目的とした可溶化前処理方法の検討

小松俊哉 藤田昌一 姫野修司

近年、化石燃料の枯渇や地球温暖化対策、各種リサイクル法の施行、またわが国において2002年12月に「バイオマス・ニッポン総合戦略」が策定され、バイオマスが新エネルギーとして大変注目されている。新潟県において稲わらは多量に発生しており、主に鋤き込みにより利用されているが、排水不良田での鋤き込みは、稲わらの分解途中で発生する有機酸などにより水稲の根腐れが生じ、初期生育が抑制されることがあることやメタンを放出することが知られており、利活用されているとは言えない。そのため今後も多量に発生することが見込まれる稲わらのさらなる利活用の促進が必要である。
バイオマス利活用によるエネルギー変換技術の一つに混合嫌気性消化法(メタン発酵法)がある。嫌気性消化法は下水処理の工程で発生する下水汚泥を嫌気性微生物の働きにより分解・処理する方法であり、その分解の生成物としてメタン、二酸化炭素からなるバイオガスを発生することから、エネルギー回収できるものである。嫌気性消化法にバイオマスを有機物源として混合することにより、バイオマスの有効利用とエネルギー回収量の増大に繋がると考えられるが、一方で消化汚泥残渣増加にも繋がることから混合するバイオマスの可溶化促進が大変重要になってくる。
そこで本研究は、混合嫌気性消化法に混合するバイオマス資源として稲わらに着目し、消化槽へ混合する前の可溶化前処理技術の一つである酵素可溶化前処理技術における最適な可溶化条件を見いだし、酵素可溶化前処理を施した稲わら投入による混合嫌気性消化法を確立させることを目的とした。
本研究で用いた酵素は、新規セルロース分解酵素であり、一般的に知られているセルロース分解酵素と異なる特徴として、キシラナーゼ活性も有しており、ヘミセルロースを分解してから、セルロースを分解することができるため、セルロースの分解効果が高いことである。
まず、酵素可溶化前処理条件を決定するために、物理的粉砕(5mm)を施した稲わらに水処理および酵素処理を併用し、分解率試験および回分式嫌気性消化実験を行った。その結果、前処理を施した稲わらを混合しても嫌気性消化に阻害はなく、順調にメタン生産が行われた。また、粉砕のみよりも水処理、水処理よりも酵素処理によってメタン転換率の向上が見られ、酵素濃度5g/L,浸漬日数約20日の条件で最も良好な成績を示した。
次に、前処理を施した稲わらと下水汚泥における消化日数30日,20日による連続式混合嫌気性消化実験を行い、混合比、稲わらのメタン転換率やTS除去率、また上澄み液の特徴および消化汚泥の処理特性等を検討した。その結果、どちらの消化日数によっても消化阻害は起きず、酵素処理によってメタン転換率は向上し、バイオマス除去率は粉砕よりも水処理や酵素処理を併用することによって向上した。酵素処理を施した混合比1:0.5の条件において最も成績が良く、メタン転換率は90%以上となり、また稲わらの混合によってアンモニア性窒素の低減や脱水性の向上が見られ、混合液の粘度の増加もわずかであった。