中井一文
PNA (Peptide Nucleic Acid) を利用した塩基配列特異的な微生物生育抑制技術の開発
大橋晶良、原田秀樹、井町寛之
本研究は、塩基配列特異的に細菌の生育抑制技術を開発することを最終目標に掲げ研究を始めた。この技術開発には、核酸同士が相補的に結合する性質を利用してタンパク質合成過程を止めるアンチセンスという技術を利用した。アンチセンスに使う人工核酸にはPNA (peptide nucleic acid) を用いた。このPNAのアンチセンス効果を確認するために、大腸菌 (Escherichia coli) が持ついくつかの塩基配列を標的としてE.coliの生育抑制を行うことを本研究の目的とした。
実験では、既往の報告を再現することを目的としたacpP mRNA、本研究で新規に生育抑制効果を確認することを目的とした16S ribosomal RNA中に存在するmRNA binding site 、EUB338領域 を標的としたPNAを用いた。これらのPNAを菌数調製済みE.coli溶液に添加し、適当な時間にサンプリングしコロニーカウントを行うことでPNAの生育抑制効果を評価した。また、PNAの溶媒に使用したジメチルスルホキシド (DMSO)と、PNAに化学修飾している細胞膜透過ペプチドがE.coliの生育に与える影響を調べる予備実験も行った。
PNAを利用した塩基配列特異的な微生物生育抑制技術の開発の第一歩となる本研究により、PNAの生育抑制効果を確証するための必須検証項目であるDMSOと細胞膜透過ペプチドがE.coliの生育に与える影響を定量化することができた。DMSOは本研究で使用する濃度において影響を無視することができるが、細胞膜透過ペプチドはE.coliの生育抑制効果が確認できたため、このペプチドを化学修飾してあるPNAの濃度決定には慎重を期す必要がある。acpP mRNAを標的としたPNAでのE.coli生育抑制では既往の報告と濃度の差はでたが、PNAのアンチセンス効果によるE.coli生育抑制を確認することができた。16S rRNAを標的としたPNAでのE.coli生育抑制は、mRNA binding siteを標的としたPNAにおいてE.coli生育抑制を行える可能性が強く示唆された。