渡邉高子

嫌気性汚泥に生息する未培養系統分類群微生物の機能推定

井町寛之、大橋晶良、原田秀樹


 現在、16S rRNA遺伝子情報の蓄積により自然環境および廃水処理プロセス等の人工バイオプロセスには、膨大でかつ多様な微生物が生息していることが明らかとなっている。また、それらの多くは未だ人為的に分離培養なされたことがなく、その機能も全く不明な生物群である。これらの未培養微生物群を分離し、その詳細な生理学的特徴を調査することは、自然環境および廃水処理プロセスにおける物質の循環・分解等を理解する上で極めて重要な課題である。そこで本研究では、未培養の微生物にアクセスするためのモデル系として嫌気性グラニュール汚泥に着目し、汚泥内に生息する未培養微生物群の機能推定を試みた。

 嫌気性グラニュール汚泥から分子生物学的手法を用いた未培養微生物群の解析を行うためには、汚泥を安定的かつ容易に採取することが必要である。そこで、嫌気性グラニュール汚泥を安定的に採取するため、ショ糖・酢酸・プロピオン酸等を炭素源とした人工廃水を処理する高温UASBリアクターを立ち上げた。その結果、COD除去率が90%以上と良好で安定的な処理を行うことができた。
上記の高温UASBリアクターから採取したグラニュール汚泥内に生息する微生物の多様性を調査するために、細菌の16S rRNA遺伝子のクローン解析を行った。その結果、グラニュール汚泥内からはChloroflexi 門やFirmicutes 門のような、既に分離培養なされている微生物を含む系統分類群に属するクローン配列や、BA024やOP8のような門レベルで未培養な微生物群に属するクローン配列も検出された。特に高頻度で検出されたBA024について、詳細な分子系統解析を行い、BA024に特異的なDNAプローブを設計した。また、以前の研究により嫌気性グラニュール汚泥においてOP9が検出されたことから、詳細な分子系統解析を行いOP9に特異的なDNAプローブの設計を行った。また、それを用いてFISHを行った結果、1-2 μmの桿菌を検出した。

 以上の結果から、OP9については今後RNase H配列特異的切断法を用いた利用可能な基質の推定が可能であると考えられた。また、BA024に特異的なDNAプローブはFISH法へ適用を試み、機能推定技術へ有用であるかを確認する必要がある。