加藤 裕之

UASB法におけるプロピオン酸酸化の高効率化

原田秀樹 大橋晶良 井町寛之

Upflow Anaerobic Sludge Blanket(UASB)法は、産業廃水処理に対して適用され、中温(35℃付近)UASBプロセスは、その処理性能ゆえ高く評価されている。現在は、高温(55℃付近)UASBプロセスの開発が行われている。高温UASBプロセスは、従来の中温UASBプロセスと比較して、高温・高濃度の有機性廃水を高負荷・高速で処理することが期待されているが、阻害物質や過負荷などの環境変動に対して鋭敏に反応するため、プロピオン酸がプロセス内へと蓄積し、プロセスの破綻を招く問題の一つとなっている。

 プロピオン酸の分解に直接的にかかわるプロピオン酸酸化細菌は、その存在が重要なものであるにもかかわらず現在までに、中温で7種、高温で2種しか分離・同定されていない。そこで本研究では、すでに分離・同定されている高温のプロピオン酸酸化細菌であるPelotomaculum thermopropionicum SI株に注目した。

 SI株は、プロピオン酸を単独で利用し、フマル酸で呼吸成育(フマル酸呼吸)するという特徴を持つため、プロセス内のプロピオン酸を単独で処理することが可能となる。


 本研究では、高温UASBプロセスにおいて、SI株の特徴を利用し、フマル酸を添加する事で、プロピオン酸酸化の高効率化を図ることを目的とし、高温UASBリアクターを用いて、長期連続処理実験を行い、その処理特性の把握、また汚泥を用いたバッチ実験により、プロピオン酸酸化に対するフマル酸の影響について調査を行った。


 バッチ実験は、汚泥と培地をバイアル瓶に分注し、さらに基質を投入したものを振とう培養した。基質としてプロピオン酸のみを投入した系では、プロピオン酸は減少し、プロピオン酸酸化細菌により利用されていることが確認された。基質としてプロピオン酸およびフマル酸を投入した系では、プロピオン酸は減少し、また同時に投入されたフマル酸も減少した。さらに、上記の2つの実験系にさらに水素を投入し、水素分圧を上昇させることでプロピオン酸の酸化を停滞させる条件でも実験を行った。

 その結果、プロピオン酸と水素を投入した系では、プロピオン酸単独基質の系と比較して、プロピオン酸がほとんど酸化されなかったことから、水素の影響が大きいことがわかる。また、基質としてプロピオン酸、フマル酸および水素を投入した系でも、プロピオン酸はプロピオン酸と水素を投入した系とほぼ同様の減少傾向となった。同時に投入されたフマル酸も同様の減少傾向となった。

 したがって、今回得られたバッチ実験の結果では、リアクターの処理が悪くなったと仮定した条件でフマル酸の影響はほとんどなかったことから、実際の高温UASBリアクターに対して、供給基質とともにフマル酸を投入するだけではプロピオン酸酸化の高効率化の達成は難しいことが確認された。