小野寺崇

インドにおける新規下水処理システム(UASB+DHS)の実規模実験

原田秀樹、大橋晶良


 近年、途上国における下水処理には低コスト型下水処理法であるUASB (Upflow Anaerobic Sludge Blanket)の適用が進んでいる。しかしながら、UASB法単独で下水処理に適用した場合、排出基準を満たすだけの処理水質を得ることが難しい。そこで、UASB法の後段になんらかの処理プロセスを付加することで、処理水質の向上させる下水処理システム (UASB+後段処理法)の開発が進められている。しかし、未だ適切な処理水質が得られ、かつ途上国に適用できうる下水処理システムの構築には至っていない。この原因としては、安価でシンプルな処理法では広大な敷地面積を必要とし、高効率な処理法では多額のランニングコストを必要とするところにある。このような背景のもと、我々はUASB法の後段処理法として、DHS (Downflow Hanging Sponge)法を開発し、5年間のベンチ・スケールの実験を経て、実規模の実証実験をインドで行なっている。

 実規模DHSリアクターはインド国カルナール下水処理場に建設された。カルナール下水処理場はUASBとFPUと呼ばれる安定化池により処理が施されている。なお、UASBの設計HRTは8.6時間、FPUは24時間で運転している。実規模DHSはHRTが1.5時間と高速処理が行なわれている。DHSはスポンジを汚泥の保持担体とした散水ろ床法であり、流入水はスポンジを流下する際にスポンジの内部および外部の微生物によって浄化が行なわれる仕組みである。このとき、酸素は空気中から取り込むため、エアレーションを行なわずとも、好気性処理が遂行される。それゆえ、低コストと高性能を両立した後段処理法であると言える。

 流入下水の全BODは平均156(標準偏差ア49 )mg/L であった。現行の後段処理法であるFPU処理水が平均40(ア20) mg/Lであるのに対し、DHS処理水では平均5(ア4 )mg/L の良好な水質が得られた。全BOD除去率においては、現行システムで平均73(ア12)% であったが、本システムでは平均96(ア3)% の高い除去率を達成した。さらに、そのすぐれた処理性能は、ほとんどノーメンテナンスで実験を継続しているにも関わらず、モニタリング期間1100日を経過した現在においても維持していた。そのため、DHS法はメンテナンスフリーの処理方法であると言える。また、DHS処理水は沈澱池の有無に関係なく、平均BODが6mg/Lの良好な処理水質を得ることが可能であったことから、DHS法は余剰汚泥の発生しない処理法であると言える。以上のことにより、実規模DHSにおいても短いHRTにおいても良好な処理水質を得ることが可能であり、またエアレーションが不要で、メンテナンスフリーのシンプルな処理法であることから、途上国への適用が十分に可能であることが実証された。