松本 俊介
酵母Cryptococcus humicola UJ1由来D-アスパラギン酸酸化酵素の基質特異性決定因子に関する研究
山田 良平 解良 芳夫 高橋 祥司
D-アスパラギン酸酸化酵素(DDO)は、酸性D-アミノ酸の酸化的脱アミノ反応を触媒するフラビン酵素であり、同様の反応を触媒するD-アミノ酸酸化酵素(DAO)の基質である中性および塩基性D-アミノ酸には作用しない。DDOは様々な生物種から精製され、その酵素学的諸特性が詳細に明らかにされるとともに、その遺伝子も複数単離されている。しかしその一方で、その構造と機能相関に関する知見は少ないままである。我々は先に酵母Cryptococcus humicola UJ1由来DDO(ChDDO)において、243番目のアルギニン残基が酸性D-アミノ酸の特異性に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。本研究では、その役割を詳細に解析するために、PCRを利用した部位特異的変異導入法により、243番目のアルギニン残基を酸性アミノ酸であるアスパラギン酸、グルタミン酸に、また中性アミノ酸であるメチオニン、塩基性アミノ酸であるリシンに置換した変異体ChDDOを構築し、大腸菌においてHisタグ融合タンパク質として発現させた。これら変異体を、TALON樹脂を使用した金属キレートアフィニティクロマトグラフィーとゲルろ過クロマトグラフィーを併用した精製を行い、各変異体を単一に精製した。その結果、各変異体は野生型と同様にFADを有していることが可視吸光スペクトルにより確認できたが、R243M、R243E、R243KではD-アスパラギン酸に対する活性は野生型よりも低かった。その一方で、R243Dでは予想に反して約2倍の活性値を示した。また、R243MとR243EはD-Alaに対しても活性を示し、さらにR243EではD-Argに対しても弱いながらも活性を示した。また酵素反応速度に関するパラメータから、R243E、R243DではD-アスパラギン酸への親和性が増加し、R243A、R243K、R243Mでは減少した。またR243D、R243KではD-グルタミン酸への親和性が増加した。また可視吸光スペクトルの各変異体のD-アスパラギン酸との反応やChDDOの強力な阻害剤であるマロン酸との反応から、243番目のアルギニン残基は基質特異性決定に重要な役割を担っていること示唆された。