佐藤 了平
コイ アセチルコリンエステラーゼの酵母における発現
山田 良平、解良 芳夫、高橋 祥司
アセチルコリンエステラーゼ ( 以下 AChE ) は、シナプス間隙において神経伝達物質アセチルコリンを加水分解し、その作用を消去させることが主な生理機能である。殺虫剤の成分として用いられている有機リン系およびカルバメート系化合物は、このAChE の働きを強く阻害する。したがって、魚類の脳や筋組織におけるAChE の比活性の減少は、水環境における有機リン系化合物曝露に対する有用なバイオマーカーとして利用され、多くの野外調査で様々な魚類のAChE の酵素活性が調べられている。しかしながら、現在用いられている組織重量あるいは組織総タンパク量あたりの比活性は個体差に影響されるため正確な評価が困難である。これを改善するために当研究室では、免疫学的手法により求めたAChE 量に基づく比活性を利用した評価法の開発を目指している。そこで、野外調査でよく用いられるコイを実験魚種に選び、コイのAChE に対する新規評価法を開発することにした。まずは、コイAChE に対する抗体が必要となるため、コイ筋組織からAChEを 精製し、それを用いて、ウサギでの抗体作製を試みたが、用いたコイAChE 精製標品の量が少なかったため抗体は得られなかった。そこで、本研究では、コイAChE を多量に得るために、コイ筋組織からAChE 遺伝子を単離し、メタノール資化性酵母Pichia pastoris を用いて本酵素を大量発現させることにした。
2005年に修了した当研究室の松本によりコイ筋組織からAChE 遺伝子が単離された。AChE遺伝子は、分泌シグナル、触媒ドメインおよびTエキソンをコードする領域からなっていることから、効率的に分泌発現させるため、野生型(WT)およびエキソンTを欠失させた変異体(儺)とその変異体の分泌シグナルを酵母α-ファクターのプレプロ配列に置換した変異体(α儺)を作成し、P. pastoris発現ベクターに組込んだ。構築した各発現ベクターを当酵母細胞へ導入した後、半定量PCR およびサザンブロット解析により、発現ベクターが1コピー導入された各形質転換体を30℃で培養し、その培養液上清のAChE活性を経時的に解析したところ、AChE遺伝子未導入株では活性がみられなかったが、各AChE遺伝子導入株では活性がみられた。このことから、単離した遺伝子が確かにAChE遺伝子をコードしていることが示された。しかしながらその活性値は低く、また、各形質転換体で違いがみられ、WTと儺発現株は同等の最大活性値を示したが、α儺 ではその25%であった。培養温度を低下させて解析したところ、各形質転換体において著しい活性値の上昇が観察され、特に儺 発現株では、培養温度15℃において、最大活性値が30倍増加した。