川崎 愛美

難分解性Tris(2-chloroethyl) phosphate分解菌の単離と特徴解析

山田 良平 解良 芳夫 高橋 祥司


 有機リン酸トリエステル類は、電気製品の難燃剤やプラスチック
の可塑剤などに使われるため、家の壁紙、カーテン、塗料、プラス
チック製品、車のタイヤ、ビニールハウス等に幅広く利用されてい
る。また油圧液、潤滑剤などPCBの代替品としても広く利用されて
きた。その一方で、発癌性や神経毒性、催奇形性といった様々な毒
性を持つことが明らかにされている。また、有機リン酸トリエステ
ル類は工場廃水や河川水、海水など様々な場所から検出され、中で
も廃棄物埋立処分地浸出水において高濃度に検出されている。有機
リン酸トリエステル類の中でも
Tris(1,3-dichloro-2-propyl)phosphate(以下TDCPP)や
Tris(2-chloroethyl)phosphate(以下TCEP)等の含塩素有機リン酸ト
リエステルは毒性が強く、難分解性であり、微生物によって分解さ
れないと報告されている。TCEPは有機リン酸トリエステル類の中で
も最も水溶解度が高いため、環境中への溶出、蓄積が考えられる。
そこで本研究では、微生物機能を利用したTCEPの分解を目的とし、
野外試料よりTCEP分解微生物を探索し、様々な培養条件でのTCEP分
解を観察した。さらにTCEP分解微生物を単離し、単離菌株の同定を
試みた。

 有機リン酸トリエステル類に曝露されている可能性のある場所か
ら採取した野外採取試料計49試料について、TCEPを唯一のリン源と
した完全合成培地に接種し、TCEP分解微生物を集積培養した結果、
13試料について生育とTCEPの除去が確認された。中でも分解の速い
2つの集積培養液(No.45-DE ,No.67-E)は、20μMのTCEPを24時間以
内で完全に消失させた。TCEPの代謝産物として予想されるものにCl
−がある。そこで培養液中のCl−濃度を測定することにより微生物
によるTCEPの分解を裏付けることにした。実験の結果、No.45-DE
,No.67-E はTCEPの消失に伴い、微生物の生育とCl−の遊離が見ら
れ、微生物がTCEPを分解し、生育の為に必要なリン酸を確保・利用
していることが明らかとなった。また、両菌群はリン源としてTCEP
よりも利用しやすいと考えられるNaH2PO4の共存下でもTCEPを分解
した。さらに、No.45-DE をPCR−DGGEにより菌叢を解析した結果、
集積培養菌群No.45-DE中にはSphingomonasに近縁であると考えられ
る3種の微生物が存在し、培養時間の経過に伴う菌叢の変化は無い
ということが示唆された。これら集積培養液No.45-DE 、No.67-Eか
らTCEP分解微生物の単離を検討したところ、No.45-DEから長桿状の
菌株2株、No.67-Eから短桿状の菌株3株のTCEP分解菌が得られた。
単離した菌株の16S rDNAの塩基配列を解析し、DNAデータベースに
対して相同性検索、系統樹解析を行った結果、No.45-DEから単離し
た2つの菌株はSphingomonas trueperi と99.5%の相同性を示し、
Sphingomonas に属する微生物であることが示唆された。一方、
No.67-Eから単離した3つの菌株はSphingobiumが属するクラスター
に存在し、Sphingobiumに属する微生物であることが示唆された。