山田 章太

プレストレストコンクリート部材における塩分浸透性状の実験的検討

指導教官:下村 匠

鉄筋コンクリートにおける鋼材腐食は,耐久性等の諸性能を損なう大きな原因のひとつである.塩分はその腐食原因のひとつであり,土木学会コンクリート標準示方書においてもその拡散係数を求める式が掲載されている.
プレストレストコンクリートは,水セメント比が小さく,ひび割れを許さない設計を行う.さらに常時圧縮応力下にあることから鋼材腐食に対する抵抗性を期待できる.そこで本研究では,圧縮応力下にあるコンクリートの塩分浸透性を実験的に検討する.
目的である塩分浸透性状の検討の他に,予備実験としてインクを用いての浸透距離および浸透量を測定し,プレストレスの影響把握を行った.
予備実験は,インク10倍希釈溶液に供試体を7日間浸漬した.浸漬前に乾燥させることで,絶乾状態とし重量変化を測定した.浸透量ではわずかにプレストレスの影響を見てとれたものの,浸透距離はインクの浸透特性により検討対象とならなかった.
塩分浸透実験においては水セメント比およびプレストレスの大きさを変化させ,実験を行った.このとき水セメント比は40%,55%の2水準,プレストレスは圧縮強度の0%,10%,30%の三水準とした.環境は塩水噴霧の促進曝露とした.水セメント比40%における結果は,プレストレスによる塩分浸透距離の低下がみられた.一方,水セメント比40%に比べて55%におけるプレストレスによる差はみられなかった.全体的に深さ方向に塩化物イオン濃度が小さくなっていることから合理的な結果が得られたといえる.
塩分浸透実験では,同時にひび割れ導入供試体の曝露を行った.プレストレスによりひび割れを閉じる作用を加え,その条件とした.ひび割れ導入供試体における結果は,ひび割れ無供試体に比べて大きな値を示した.ひび割れ無条件としての理論値と比較しても大きな値を示したことから,ひび割れによる塩分浸透抵抗性の低下は無視できないといえる.
本研究において,プレストレスによる塩分浸透抵抗性の向上を見て取れることができた.結果は傾向として合理的であり,さらに検討を行っていく余地が十分にあるといえる.