香川 雄治
コンクリート細孔構造中における液状水移動と水蒸気移動の分離評価
指導教官:下村 匠
コンクリートは内部に大小の細孔を持つ多孔材料であり,通常,その内部に水分を含んだ状態にある.空隙中の水分は液状水か水蒸気の状態で存在しているが,鉄筋コンクリート中の鉄筋の腐食など,劣化の進行状況は液状水の有無に支配される.ゆえに,コンクリート細孔構造中の水分量やその形態を正確に把握することはコンクリート構造物の性能予測のために重要である.
硬化後のコンクリートが経験する外部との水分移動形態には吸水,乾燥,吸湿がある.吸水とは,乾燥したコンクリート表面に液状水が触れたとき,水分がコンクリート内部に液状水として浸透する水分移動現象である.吸水時にコンクリート表層付近は飽和状態となり,吸水現象中のコンクリートは部分飽和状態にある.乾燥,吸湿とは,コンクリート中と大気中の水分が平衡状態に向かう水分移動現象である.このとき,コンクリート中は不飽和となり,大気との水分のやり取りは水蒸気の形態で行われるが,コンクリート中では液状水移動と水蒸気移動が共に生じていると考えられている.
既存の研究では,不飽和のコンクリートにおいて液状水移動が生じていることが予見されているが,コンクリート細孔構造は微視的であり,直接観測することが困難であるがゆえ,その実体を実験により検証した例はなく,液状水の移動を明示するには至っていない.
そこで本研究では液状水中で電解し,液状水の蒸発時にはその位置に留まる塩化物イオンの特性に着目し,上面一面のみで乾燥を許す円柱供試体中でトレーサーとして用いることにより,その濃度分布より,不飽和コンクリート中における液状水の移動の有無を実験的に確認した.
乾燥面近傍での塩化物イオン濃度の増加より,コンクリート細孔構造を持つセメントモルタル供試体において,不飽和状態での液状水移動を実験的に確認できた.
水分量が少ない乾燥面近傍において塩化物イオン濃度の増加がみられたことから,コンクリート細孔構造中では,空隙中の水分量が多いときでは液状水移動が卓越し,少ないときでは水蒸気移動が卓越することが示唆された.