船戸 昭彦

繊維補強された鉄筋コンクリート部材のひび割れ幅抑制メカニズム

指導教官：下村 匠

本研究は，コンクリート片の剥落防止用として用いられる短繊維およびメッシュ状繊維のひび割れ幅抑制効果に着目し，アラミド製の短繊維およびメッシュ状繊維を使用して鉄筋コンクリート部材を作製し，ひび割れ幅試験として一軸引張試験を実施し，繊維補強された鉄筋コンクリート部材のひび割れ幅抑制効果およびそのメカニズムについて，ひび割れ間隔を固定し，鉄筋平均ひずみ，コンクリートの平均ひずみを実測することにより実験的に検討することを目的とした．
一軸引張試験を実施し，各応力レベルにおけるひび割れ幅を測定し検討した．その結果，以下の知見が得られた.
・メッシュ状繊維は鉄筋コンクリート部材の同一応力下における平均ひび割れ幅を低減する効果がある．
・短繊維補強コンクリート供試体とプレーン供試体の同一応力下における平均ひび割れ幅はほぼ等しく，ひび割れ間隔を固定した本実験条件下では短繊維によるひび割れ幅低減効果は確認されなかった．
繊維補強された鉄筋コンクリート部材のひび割れ幅のメカニズムは，
・メッシュ状繊維は鉄筋コンクリート部材中において，引張力の一部を負担することにより，同一荷重時における鉄筋応力を低減する効果は小さい．したがって，メッシュ状繊維に確認されたひび割れ幅低減のメカニズムは鉄筋平均ひずみが減少するためではない．
・メッシュ状繊維に確認されたひび割れ幅低減効果のメカニズムは，ひび割れを跨ぐ繊維によりひび割れ間のコンクリートが引張られ，ひび割れを閉合させる方向に引張変形するためである．この引張変形は，コンクリート表面に微小なひび割れが発生することによる．
・短繊維混入によるコンクリートのtension-stiffening効果の増大は見られない．すなわち，同一荷重時における鉄筋平均ひずみはプレーン供試体と短繊維コンクリート供試体ほぼ同じである．
・メッシュ状繊維を用いた場合と同様，短繊維補強材によっても，ひび割れ間のコンクリートの引張変形の増大が認められた．これは，コンクリート表面に微小なひび割れが発生することによるものである．
・短繊維混入コンクリートを用いた供試体は，プレーンコンクリート供試体よりも供試体端部からの鉄筋の抜け出しが少なかった．鉄筋と短繊維の混入によりひび割れ幅を閉口させる方向へのコンクリート伸びひずみが認められたにも関わらず，ひび割れ幅低減が見られなかったのは，繊維の架橋効果によるコンクリート表面のひずみの増大と，抜け出し減少による部材ひずみ増大がキャンセルしたためであると考えられる．