平川 信之

RC巻き立て補強工法における膨張材のひび割れ抑制効果

指導教官:丸山 久一

 
本研究は,RC巻き立て補強工法における膨張材のひび割れ抑制効果を実験および解析から定量的に評価することを目的とした。マスコンクリートに発生する温度応力に起因するひび割れに対して膨張材が有効に働くことはよく知られている。しかし,その多くは温度応力解析により膨張材の効果を示した後に実構造物へ適用を図り,ひび割れが発生しなかったことを示すものが多く,実構造物において膨張材の有無によりひび割れの発生の差を実験的に明らかにした報告は少なく,膨張材のひび割れ抑制効果を適切に表現したものは少ないと言える。
本研究では,膨張材のひび割れ抑制効果を実験的に明らかにし,その実験結果を基にして実構造物モデルまで発展させ,膨張材の効果を解析的に検討した。実験では,膨張材の有無および鉄筋の有無をパラメータとした既設鋼管橋脚に1m程度巻き立てたコンクリート供試体を作製し,材齢初期からの温度,ひずみおよび有効応力を測定することにより膨張材のひび割れ抑制効果を検討した。水和熱抑制型の膨張材を添加することにより,普通セメントコンクリートと比較して供試体の内部および表面ともに4℃程度の発熱抑制が確認された。また,無応力計により計測された実ひずみと温度の関係から求めた線膨張係数より,膨張コンクリートの線膨張係数は温度上昇過程において膨張作用により膨張材を添加しないコンクリートより大きくなっており,下降過程においては膨張コンクリートで線膨張係数が9.1μ/℃,普通コンクリートで10.5μ/℃と膨張材の収縮低減効果が発揮されていることが確認された。膨張材の有無および鉄筋の有無をパラメータとした供試体の中で,膨張材なし鉄筋なしの供試体のみに材齢初期に鋼管周りに円周方向のひび割れが確認された。
解析では,実験結果を基に温度応力解析により熱物性値や力学的物性値のシミュレーションを行い,断熱温度上昇特性,熱伝達率,線膨張係数を同定した。特に膨張材の効果を温度応力解析においてどのように取り入れるか検討を行い,膨張材の有無によるひび割れの発生度合いの違いを解析的に評価した。また,実験およびその再現解析で検討した物性値を基にして,実構造物モデルにおける応力の評価および膨張材のひび割れ抑制効果を検討した。温度応力解析において,膨張材の効果を見かけの線膨張係数に置き換え適用すると,0.6N/mm2程度の引張応力の緩和が認められ,膨張材のひび割れ低減効果が確認された。