北岡 勇介

電気化学的脱塩工法による塩化物イオン除去の有効性に関する研究

指導教官:丸山 久一

脱塩による補修の設計には,電気化学的な塩化物イオンの移動予測と,それに基づく耐久性能の回復度を評価することが不可欠である.しかしながら,各イオンの移動メカニズムについて,十分に解明されていないのが現状である.また,断面欠損したPC部材に脱塩工法を適用した際の水素脆化の影響が明らかになっていない.
本研究では,電食により断面欠損させたPC部材に脱塩工法を適用した際の水素脆化の影響,脱塩によるコンクリート内の各イオンの移動把握,可溶性塩分の移動メカニズムの解明,脱塩実験終了後暴露試験を行い,鋼材位置へのアルカリ集積に伴う影響の確認,ならびに鋼材の腐食性状を把握することを目的とした.
水素脆化による影響については,電食により断面欠損させたPC部材に脱塩工法を適用後,PC鋼材の引張試験および破断面のSEM観察により検討を行った.SEM観察により,水素脆化の影響は見られなかった.また,PC鋼材の芯線の引張試験により,降伏荷重および弾性係数については脱塩の影響はなかったが,脱塩を行うことにより破断時の伸びが低下する傾向を示した.
各イオンの移動把握については,各イオンの濃度測定により検討した.ナトリウムイオンは鋼材近傍に集積すること,固定塩分は鋼材位置で若干減少するがその他の部位ではほとんど変化しないこと,ナトリウムイオン,カリウムイオン,可溶性塩分,固定塩分は積算電流密度で整理可能であることが分かった.また,拡散の移動を無視した,塩分濃度と抵抗密度に基づく簡易なモデルを提案することにより,可溶性塩分の移動を再現できた.さらに,初期塩分量およびコンクリート配合の異なる供試体に本モデルを適用し,本モデルの汎用性について検討した.その結果,可溶性塩分減少を変化させることにより,配合の異なるコンクリートにおいても本モデルが適用可能であることが明らかとなった.
また,脱塩実験終了後,暴露試験を実施した結果,コンクリートにひび割れを確認した.コンクリート切断面に白色析出物が見られ,SEM観察および元素分析によりひび割れ原因について検討を行った.元素分析よりSiO2が不足しており,CaO量が多量に存在していることから,白色物はセメント水和物であるC-S-Hゲルであることが考えられる.また,SEM観察および元素分析からエトリンガイトと考えられる膨張生成物の結晶が多量に検出され,ひび割れに起因していることが予想される.