小野 秀晃

コンクリートの体積変化現象における骨材の影響

指導教官：下村 匠


本研究は，ペーストの自己的体積変化に起因するコンクリートの体積変化現象を，より物理現象を正確に反映した力学的モデルにて表現することを目的に行われた．
複合材料であるコンクリートの自己的体積変化は，体積変化を生じるペーストと，体積希釈効果および変形拘束効果を有する骨材の二相材料として考える複合則によって表現できることが指摘されている．コンクリート中の骨材周辺では，骨材がペーストの収縮変形を拘束する効果（＝並列的メカニズム）が卓越し，骨材から離れた部分では，骨材による拘束は小さく，骨材はコンクリート単位体積あたりのペーストの体積を希釈する効果（＝直列的メカニズム）が支配的となると考えられる．ペーストの体積変化ひずみ，ペーストの弾性係数，骨材の弾性係数および骨材体積率を入力値として与え，コンクリートの収縮を計算するモデルはいくつか提案されているが，いずれのモデルにおいても，ある程度妥当性が認められることが実証されている．
本研究では，コンクリートの収縮現象におけるペーストと骨材の複合関係の実態について，より理解を深めるために，極端な条件による実験を実施した．すなわち，骨材の弾性係数は並列的メカニズムによる骨材の収縮拘束効果に影響を及ぼすと考えられるため，弾性係数が通常の骨材よりも著しく小さいゴム製骨材を用い，骨材混入量を変化させ，直列的メカニズムのみ抽出することを目的に乾燥収縮および自己収縮試験を行った．
その結果，水分逸散および自己収縮では，骨材はコンクリート単位体積中におけるペースト濃度を希釈する働きが卓越することを実験的に明らかにした．しかし，乾燥収縮では，希釈効果および変形拘束効果では到底説明できない結果が現れた．すなわち，コンクリートがペースト単体より大きな変形を示したことである．
自己収縮と乾燥収縮はいずれもコンクリート中のペーストの収縮に起因する現象であるが，有限供試体中の不均一な収縮分布による空間的内部拘束効果の有無が異なることに着目し，自己収縮で得られた直列的メカニズムを乾燥収縮の空間的勾配中の局所的微小要素に組み込む解析方法を用いて，この現象を定性的に表現した．この結果から，乾燥収縮における体積変化の空間的勾配に起因した内部拘束の影響が無視できないことを実験と解析により明らかにした．