池津 和弘

コンクリート用表面被覆材および表面改質材による物質遮蔽メカニズムの解明

指導教官:下村  匠

本研究は,コンクリート構造物の表面保護技術のひとつである,表面被覆材および表面改質材を適用した工法の物質遮蔽性能に着目したものである.これら材料に対する物質遮蔽性能を実験的に検討し,塩化物イオン拡散係数を同定して定量評価すること,また,表面改質材を塗布したコンクリートにおける物質遮蔽メカニズムを解明し,それに基づいて物質遮蔽性能のモデル化を行うことを目的として行った.
表面被覆材は,コンクリート構造物表面に皮膜を形成し,それ自体に膜厚を有する.一方,表面改質材はコンクリート内部に浸透し,表層近傍のコンクリートの性質を改善する効果があり,それ自体には膜厚をもたないものである.現在,これらの材料の物質遮蔽性能を簡便にかつ定量的に評価する手法は,一般には確立していない.その主たる理由は,被覆材および改質材の物質遮蔽性能が著しく大きいために,コンクリートと同様の試験方法を用いたのでは物質を透過させるのが困難であること,それらの物質遮蔽特性を定量的に表す一般的な指標がないことによる.
そのような背景のもと,本研究室では,通電による物質透過性試験と塩化物イオンの拡散移動数値解析を併用して,塩化物イオン拡散係数を同定する手法が開発されている.本研究では,いくつかの修正点を追加した上で,4種類の被覆材および2種類の改質材にこの手法を適用した.その結果,通電による物質透過性試験では,平均電流を指標値として,被覆材および改質材の物質遮蔽性能を定量評価できることが示された.また,数値解析を併用して算出したこれら材料の拡散係数は,コンクリートの拡散係数に比べて,被覆材では2〜3オーダー,改質材では1〜2オーダー小さい値となった.これは,既往の知見とも一致していることから,本手法がこれら材料にも適用可能であり,汎用性のある評価手法であることを確認できた.
次に,改質材を適用したコンクリートの細孔径分布を測定し,細孔構造の観点から物質遮蔽性能のモデル化を試みた.その結果,改質材による塩分遮蔽メカニズムは,改質材が空隙へ浸透し,コンクリートの細孔構造を緻密化させることによる可能性が高いことが明らかになった.また,コンクリート内部の材料パラメータおよび細孔構造を変化させるモデルの構築を行い,表面改質材による物質遮蔽効果が細孔構造の緻密化によりもたらされている可能性を数値シミュレーションにより立証することができた.