松岡寛和

新潟県内の飛来塩分に与える風向・風速および橋梁周辺環境に関する研究

岩崎英治 長井正嗣

近年,ライフサイクルコスト(LCC)の低減が重要課題となっている.こうした中で,耐候性鋼材は無塗装で使用できるため,LCC低減の観点において魅力的な鋼材であるといえる.耐候性鋼材は鋼材表面に暗褐色の緻密で密着性の高いさび層を形成する.このさび層は安定さびと呼ばれ,鋼材に水や酸素の透過を防ぎ,腐食作用を抑制する働きをもつ.これにより,耐候性鋼材は無塗装で使用することができ,LCC低減への期待が大きく,耐候性鋼材を使用した無塗装耐候性鋼橋梁が増加している.
耐候性鋼材の特徴である安定さびの形成には飛来塩分量の影響が大きく,耐候性鋼材を使用するためには飛来塩分量を測定し,0.05mdd(mg/dm2/day)以内であれば耐候性鋼材を使用することができる.しかし,飛来塩分量は年間を通じて変化するため,測定には多大な労力と時間が必要となる.そのため,離岸距離が十分な地域では飛来塩分量の測定を省略してよいとされ,北陸以北の日本海に面した地域では,離岸距離が20km以上となっており,新潟県では,ほとんどの平野部が調査対象地域となる.これが耐候性橋梁建設の大きな障害となっているため,飛来塩分量の予測を行うことは重要であり,飛来塩分に与える影響の大きい風,地形と飛来塩分との関係を明らかにすることは有用であると考える.
本研究では,新潟県内における周辺環境の異なった地点の飛来塩分量調査を行い,アメダス観測点の風向・風速データを使用して飛来塩分量予測を行った.また,飛来塩分量予測の一環として桁周辺の風を数値的にシミュレーションし,周辺環境の違いによる風の流れについて調べた.以下に得られた結果を述べる.
(1)飛来塩分量調査の結果,観測点,観測年により飛来塩分量は変化し,離岸距離20kmを越えている地点でも0.05mdd以上の飛来塩分量が計測された.これには,地形や風向・風速の影響が大きいと考える.
(2)アメダス観測点での風の傾向を調査した結果,地域によって風の傾向は様々であり,1ヶ月間の風の傾向は観測年により変化することが確認できたが,1年間の風の傾向は観測年によって変わらず,卓越風の方向は観測点によって決まっていることがわかった.
(3)アメダス風向・風速データを用いて飛来塩分量の予測を行った結果,観測値との誤差は小さく,良好な結果であった.これより,本予測手法は妥当な方法であるといえる.
(4)桁周辺の風をシミュレーションした結果,桁高,桁下空間,風向の変化によって風の流れは様々に変化することがわかった.