中川 治士
連続合成桁の初期ひび割れ性状の解明に関する実験的研究
長井 正嗣, 岩崎 英治
近年、橋梁建設コスト縮減の観点から、連続合成桁橋が復活し、急速に建設数が増加する傾向にある。連続合成桁では、中間支点位置で負曲げモーメントが作用し、したがって、床版に引張力が導入され、ひび割れ発生の原因と、併せて耐久性の低下を招くことになる。この対策としては、プレストレスを導入する具体的な施工例も多く見られる。しかしながら、この手法ではコストアップに繋がり、また導入したプレストレスが消失する可能性も懸念されている。このような状況の中、防水工の施工を前提に、ひび割れを許容する設計が一般化しつつある。つまり、ひび割れを許容値まで容認するひび割れ幅制御設計法である。
我が国においては、近年、日本道路公団と(社)日本橋梁建設協会から合成桁床版のひび割れ幅算定法が提案された。しかしながら、これらの提案法では、コンクリート床版が安定ひび割れ状態(新たなひび割れがほぼ生じない程度に十分にひび割れが導入された状態)にあることが前提となっている。一方、実際の橋梁、とくに多用されているスパン60m以下の領域では、初期ひび割れ状態(ひび割れは発生し始める状態)にあることが多く、適用には問題があると言える。このような立場から著者の研究グループでは、新たなひび割れ制御設計法を提案した。
本研究は、模型桁に負曲げモーメントを作用させる実験を行い、新たに提案したひび割れ制御設計法の妥当性を検討した結果を報告する。今回の実験では、コンクリート床版として通常のタイプ(プレーンコンクリート)とケミカルプレストレスを導入(膨張材)したタイプ及び通常タイプにビニロン短繊維を混入した3タイプを扱った。本研究より得られた結果を要約すると以下のようになる。
1)プレーンコンクリートの場合、初期ひび割れ荷重、軸力ともに比較的良い一致を示した.計測した最大ひび割れ幅は最大ひずみに対応し、一方、平均ひび割れ幅は初期から安定の途中までは平均ひずみに対応したが、途中で最大ひずみに対応するものとなった。計測鉄筋ひずみは最大ひずみに対応した。
2)膨張材を用いると、ひび割れ発生が遅くなり、またひび割れ幅も最も小さい値を示した。
3)プレーンコンクリートにビニロン短繊維を混入させると、低い荷重で初期ひび割れが発生したが、この原因は同定できなかった。ひび割れ幅は、ひび割れ初期段階で小さくなるが、荷重の増加に伴い、効果が低下する。