保坂 長寿
新潟県中越地震における宅地造成地被害の調査・研究
大塚悟
平成16年10月23日17時56分に新潟県中越地域にてM6.8(暫定値,以下同様)の地震が発生した.新潟県の川口町で震度7,小千谷市,山古志村,小国町で震度6強,震度6弱を長岡市などで観測した.観測された震度は直下型地震のレベルU地震動に当たる地震であり,各地で大きな災害が発生した.阪神大震災と比較すると中山間地で地震が起きたことから,特に地盤災害が甚大であった.その理由には台風23号による大雨で地盤が緩んでいたことに加え,余震が繰り返し生じたことが被害を拡大したものと考えられる.
土構造物では盛土の被害が大きかった.道路盛土などの社会基盤施設が短時間に復旧したことに比べ,個人宅地が立ち並ぶ宅地造成地では今なお復旧の目処がたたず,大きな社会問題となっている.本研究は,新潟県中越地震において被害が顕著であった長岡市の高町団地を例に宅地盛土の地震被害における災害形態とその原因を明らかにする.
高町団地の現地踏査より地震被害の状況を調査した.調査項目は建物被害について危険宅地と要注意宅地,道路の破損状況,擁壁の変状,地面の段差やクラックである.調査に当たっては被害状況の写真撮影および計測を実施した.
以下に本研究で得られた新潟県中越地震における高町団地の被害の特徴と得られた知見を箇条書きにする.
1.団地の被害状況と切盛りとの相関関係が顕著に見られる.
2.大崩壊地点は地形的な角部,凸部に当たり,谷筋や沢部などの集水地形であった.
3.アンカーは耐震安定性に有効に作用したといえる.
4.盛土の排水が適切に行われていれば,被害が軽減された可能性が高い.
5.基礎地盤の強度不足の原因となり得る崖錘堆積物には,注意して計画施工する必要がある.
6.原地盤を滑り台として盛土部が滑動した.段切りなどの原地盤との接合を計る施工が必要である.
7.建物被害は,大半が基礎地盤の変状に起因するものであった.地震時に変形を起こさない土構造物を構築することは経済的な視点から非現実的であることを考えると,リスク管理が必要である.
8.耐震対策や建物移転などのソフト的な防災措置がとられるような,地震災害を視野に入れた法整備が必要である.