山田 健士

有限変形理論に基づく土構造物の動的挙動解析

大塚 悟


 新潟県中越地震では,道路や宅地等の盛土構造物に多くの被害が見られた.この地震は内陸直下型地震のレベルU地震動に相当し,土構造物の耐震設計にて土構造物の変形を考慮した手法の確立が求められている。また,中越地震では本震の後に震度5を超える余震が断続的に発生して土構造物の被害が大きくなったことから,地震力が繰り返し土構造物に載荷する事例の動的挙動の把握が望まれる.

 本研究は土構造物の地震応答解析を行うために有限変形理論に基づく有限要素解析プログラムの開発を行った。微小変形理論では変形前後での形状の違いは無視されるために,せん断変形に伴う剛体回転の影響や土構造物の運動による慣性力の変化を考慮できない問題がある。本研究では有限変形理論に基づく動的解析プログラムを作成し,その妥当性について検討するとともに事例解析を試みた.

 有限要素法は現在配置を常に基準配置とみなすupdated Lagrange形式により定式化する.なお,応力速度はTruesdell速度を用いた.動的問題への拡張に関しては時間積分法にNewmark-β法を適用した.土構造物の変形によるせん断剛性,減衰定数のひずみ依存性を考慮するために等価線形化法を導入した.

 本解析プログラムの性能評価を行うために,1次元動的問題に対して理論解と比較した.静的問題に対して理論解と完全に一致するほか,減衰強制振動解析を実施すると変位は最終的に静的解析による解に一致したことから,動的問題の基本特性に関して妥当性が確認された.また,せん断強制振動解析においてせん断波の伝播状況,速度が理論解と一致することを確認した.

 2次元斜面問題に対して弾性解析を実施して,入力波および地盤定数の及ぼす変形モードについて事例解析を行うとともに,地盤物性値のひずみレベル依存性を取り入れる等価線形化法の解析を実施した.等価線形解析は弾性解析をベースにすることから残留変形を求めることは出来ないが,応答変位は実際の挙動に近い結果が得られた。新潟中越地震の長岡で得られた加速度波形データを用いて,本震・余震を想定した動的挙動解析を実施した.等価線形化法の効果によって,本震伝播後における斜面内部のせん断ひずみ集中箇所は剛性が著しく低下している.その剛性を余震の初期剛性として入力することによって,地震の繰返しによる変形,ひずみの拡大を表現できた.