佐藤 和正

軟弱地盤中の中折れシールド機挙動のシミュレーション

杉本 光隆

現在、シールドマシンの制御・操作は自動掘進システムにより行われるようになっている。しかし、地盤物性値、マシン作用力、掘進中のシールド機挙動は未解明な点が多い。そこで、掘削領域、テイルクリアランス、動的釣り合い、CF回転方向、シールド機のスライド、緩み領域を考慮できるシールド機動力学モデルが開発されてきた。本研究では、超軟弱地盤における現場実測データにより地盤物性値を逆解析し、中折れシールド機挙動の実測値と動力学モデルによる計算値とを比較することにより、超軟弱地盤における中折れシールド機動力学モデルの妥当性を検証することを目的とする。
解析には、日本堤幹線工事におけるシールド機の挙動・制御実測データを用いた。解析範囲のトンネルは、N値が0である超軟弱地盤の下部有楽町層粘性土層上部(Ylcu層)とN値が0〜6である軟弱地盤の下部有楽町層粘性土層下部(Ylcl層)に位置している。
今回の解析の特徴は以下のとおりである。
@現場計測データはシールド機上向きでジャッキ鉛直モーメント下向きを示し、通常では想定できない状態であった。そこで、通常、法線方向土圧に動摩擦係数を乗じて算出されるスキンプレート周り軸方向動摩擦力を、動的付着力で支えた。軟弱地盤の下層より、超軟弱地盤の上層の方が変形しやすいことから、上層のスキンプレート周りの軸方向動摩擦力を規定する動的付着力、及び、カッターフェイス法線方向土圧を規定する切羽土圧係数aを大きく規定した。その結果、上記のシールド機挙動を再現できた。この動的付着力は推進工法で用いられている動的付着力と整合している。超軟弱な粘性土地盤では、動摩擦係数より動的付着力が、スキンプレート周りの軸方向動摩擦力規定していること、動的付着力、切羽土圧係数aは、軟弱な地盤の方が大きくなることが明らかとなった。
A現場計測データは、直線部に関わらず、ジャッキ水平モーメントは右向きで推移していた。これは、傾斜地盤の影響と考えられる。傾斜地盤の影響を考慮するために、余掘り低減率を左右を独立に測定することにより、上記のシールド機挙動を再現できた。
B距離程2548m付近までは、ピッチング角計算値と実測値はほぼ一致していたが、それ以後は実測値より計算値は下向きとなり、2559m付近では約40min程下向きとなった。これは、地質構造が変化したこと、地盤物性値が変化したことのためであると考えられる。
上記のような特徴があるものの概ねトンネル平面線形、縦断線形、ヨーイング角、ピッチング角の計算値と実測値は良く一致しており、パラメーターを適切に設定すれば、中折れ用シールド機動力学モデルは超軟弱地盤における実機挙動を表現できると考えられる。