加藤千晴

2004年7月新潟豪雨における斜面崩壊の事例研究

豊田浩史

平成16年13日,新潟県中越地方に未曾有の集中豪雨が発生した.この集中豪雨により,堤防決壊や土砂災害が多発し,一般住宅のみならず,公共土木施設に甚大な被害をもたらした.新潟県では,大小合わせると347件の豪雨による土砂災害が発生しており,本研究では,主な崩壊現場の踏査を行った.その中で特に出雲崎町中山の崩壊現場について着目した.崩壊は長さ約60m,幅約35m,傾き約25度で,現場には泥岩の不連続面(流れ盤)が現れていた.そして泥岩には条線が残っており,条線方向が斜面方向と一致していないことから,斜面上部の崩壊は斜面下部の崩壊に依存した可能性がある.そこで現場から,泥岩層の上の未崩壊表層土,泥岩層,また泥岩層とほぼ同じような崩壊土砂を採取して土質試験を行い,斜面の安定解析を行った.
試験は,一次元圧密試験,不攪乱土の一面せん断試験および残留強度を求めるためのリングせん断試験を行った.リングせん断試験装置は,リングの直径が大きいことから現位置から不攪乱試料の採取が難しい.本研究では,はじめに攪乱した試料で繰返し一面せん断試験とリングせん断試験を行い,それらの結果より同一の残留強度が得られることを確認した.
一次元圧密試験より,不攪乱試料は約400kPaの鉛直応力で練返し試料の圧密曲線に一致してくる.つまり,先行圧密荷重としては,20m以上の層厚となる.しかしながら,崩壊後,乾燥収縮履歴を受けたため,降伏応力が大きくなったとも考えられる.練返した泥岩のリングせん断試験では,正規圧密試料のピークと残留強度の結果から,この試料は,残留強度はかなり小さくなっており,変形が進行すると著しい強度低下を生じることがわかった.また,リングせん断試験においては,せん断面がきれいに形成されており,原位置と同じく条線も現れていた.
次に粘土と砂の残留摩擦であるが,粘土の残留強度とほぼ同じ結果を得た.せん断面の観察より,変形が進むにしたがって,砂に粘土が張り付くことにより,粘土の残留強度にほぼ等しくなったことがわかった.つまり.実際問題としても,最低強度としては,粘土の残留強度を使っておくべきであろう.
今回の地形を考えると,崩壊頭部は尾根に近いので,被圧水の影響はそれほど無いが,斜面下部についてはその影響を考慮すべきである.斜面下部崩壊が上部の崩壊を引き起こした可能性もある.このように考えると,斜面の中に流れ盤の不連続面(不透水層)がある場合は,かなり危険度の高い斜面となる.