岸野 八洲雄
海域環境シミュレーターの開発研究
細山田 得三
海洋において流体は位置によって密度が変化している。このような密度成層流体においては、均質な流体とは異なり密度が異なる境界面において内部波が伝播するといわれている。この内部波は大きなエネルギーを有し、沿岸海域に生成・伝播することにより水質環境や漁業形成に影響するのみならず底面流速を変化させることにより底泥輸送を促進することが示唆されている。
既存の研究においては例として有明海がある。有明海では2000年に海苔の不作が大きな問題となり諫早湾干拓の影響が取りざたされるようになった。その後、有明海の海域環境変化に関しては様々な機関が研究に取り組んでいるが干拓などの影響に目が向き、基礎的なプロセスに関する研究が十分ではないままに個々の事象を定性的に関連づけるだけに終わっている面も多い。生物が大きな役割を果たしているので難しい面も多いが、物理面に限っても不明確な点は少なくない。例えば、潮汐の振幅の減少が鉛直混合を弱め、それが成層を強めることによって生物環境に影響を与えている可能性について定量的な議論はない。従って個々の事象を理解するための流動シミュレーターが必要である。
よって本研究は基礎的プロセスである海水の混合に着目し、なかでも鉛直混合を強めることが示唆されている内部波の発生機構を理解するための沿岸海域における3次元流動・物質拡散数値シミュレーターを構築した。内容としては、水温、塩素濃度、密度の移流・拡散と、海水面における大気との熱フラックスを考慮したものとなっている。これにより、内部波の発生する条件を検証し、発生による水平、鉛直の流速と密度成層の挙動を可視化した。設定条件として、駆動力においては、入射派のみの場合、風力のみの場合、そして両方を駆動させた場合、また、流体の条件としては一様流体の場合、成層のある場合を考え、そして、地形に関しては海底に傾斜がある場合とそうでない場合を設定した。
その結果、海底の凹凸、成層の有無、若しくはその数、風力による効果などが内部波の発生メカニズムに影響を与えていることが明らかとなった。そして、内部波に伴って、水平流速、鉛直流速が増大し、新たな渦を発生させ、内部の流れに乱れを生じさせている様子を捉えることができた。また、鉛直流速の増大により密度成層に対して混合を促進し、底質輸送に対して少なからずとも影響しているという結論に達した。