山田 圭介

ウェーブレット解析を用いた地中音に関する研究

宮木康幸


 我が研究室では,以前からCCDカメラを用いた斜面監視システムを開発している.特徴として,(1)比較的広い面積を監視することが可能(2)無人での自動監視が可能,などが挙げられる.しかし欠点として,(1)斜面の地表だけが監視の対象となっているため,地表に変動が現れるまで異常を検知できない(2)夜間や気象条件などの外的な影響を受けやすい,などが挙げられる.そこで,平成12年度から音響的手法を用いた地すべり予測システムの開発に取り組んでいる.音響的手法の利点としては,地表面の変動が現れる前に斜面の内部変動の音を計測して,地表面観測よりも早期に地すべりを予測できることが考えられる.

 昨年度の研究では地中音の一つとして,植物の根が微弱な変動によって切れるときに発生すると予測される音に注目した.その結論として草の根切れ音に着目した場合,それを検出できるセンサの有効範囲は2mという結論に至った.しかし,実際の地すべり現場の規模を考えると,この有効範囲では実用性が低い.そこで今年度はこのセンサの有効範囲の拡大を研究目標として取り上げた.

 そのための大きな改善点は,昨年に根切れ音の判別手段として用いたFFT解析をウェーブレット解析に変えたことである.これは根切れ音の性質が時刻によって変わらない場合は観測時間全体に窓関数を設定するFFTが有効であると考えられるが,根切れ音は時刻によりその性質が変化する場合が多いので,その着目している時刻に窓関数を設定できるウェーブレット解析が好ましいと考えられるためである.昨年の有効範囲が2mと判定された同じ実験データについて,改めてウェーブレット解析を行い,その有効性を検討した結果,2m以上のデータからも根切れ音を検出することができた.また,時間−周波数解析が可能になり,根切れ音の「ブツッ,ブツブツッ」というような連続パターンの確認も可能になった.

 その他の改善では,センサを20cm程度の深さに埋めることで,ノイズと根切れ音の区別をよりはっきりできること,またノイズは100Hz付近より高い周波数帯で卓越していることから,根切れ音の判別方法を,ノイズが卓越している100Hz付近以上の周波数帯を避け,それより下の60Hz〜80Hzの周波数帯で判別を行うことで,より判別しやすくなると考えた.

 以上に述べたこれら3つの改善点を導入し再度,根切れ音に対するセンサの有効範囲の測定実験を行った結果,根切れ音に着目した場合のセンサの有効範囲を2mから9mまで伸ばすことができた.

 また実際に大学構内で地すべりを起こしている斜面において,根切れ音の検出実験を行った場合でも,平地での実験と同じように検出することができた.