渡辺 寛也

水害時の避難行動の促進要因に関する研究

松本 昌二

かつて水害常襲地帯とされた地域では、古くから治水事業が重要な公共事業として位置付けられ、治水施設の整備が積極的に進められてきた.それにより地域の水害に対する安全性は飛躍的に向上し、今日では、水害常襲地帯と呼べるほどの地域は見られなくなっている.しかし、治水整備が進み、洪水の頻度が低下したことに伴って、地域住民の水害に対する危険意識が低下していくという事態も考えられる.治水施設の多くは、おおむね数十年〜百年に一度発生する程度の降雨に対応することが念頭におかれており、計画規模を上回る洪水に対する安全を保障するものではない.したがって、超過洪水が発生した場合、住民の危険意識の低下は、避難行動の遅れを招き、人的被害への拡大につながることが懸念される.
そこで、本研究では避難行動の促進要因を分析することを目的とする.平常時からの対応として、水害に関する知識の口承に着目し、新潟市楚川地区、天野1丁目地区に住む世帯に対してアンケート調査を実施し、水害に関する話題の発生を地域内で活性化させる要因についての分析を行った.これより、水防活動への参加経験、水害に関する知識、危険認識の度合いを高めることで、水害に関する話題の発生を促進させることを明らかにした.また、偏ネットモデルを利用した友人関係のシミュレーションを行い、水防訓練の実施が、水害に関する話題の発生を促進させる程度を検証した.
次に、緊急時の対応として、浸水被害が生じる前に避難行動を起こすべきであるという認識のもと、7.13水害の際、付近の川が氾濫する危険性に瀕した白根市山崎興野地区、下山崎地区、新山崎町地区を対象にアンケート調査を実施し、その日の他の世帯との情報交換、避難行動を行う要因とその因果構造についての分析を行った.ここでは、緊急時における世帯間の情報交換の発生には、過去の水害に関する話題の発生有無及び水防に関する知識の所持が、避難行動の実行には、平常時から避難場所の確認などの水害対策を行うことが大きな促進要因となり得ることがわかった. 
以上より、水防訓練を実施し、正しい水防に関する知識を住民に与えることで、世帯間で水害に関する話題が生じるようになり、緊急時にも世帯間の連携や早期避難行動に結びつくことが期待できることを示唆した.