大坂恵美

WO3電極の微細組織が薄膜素子型キャパシタの充放電反応に及ぼす影響

佐藤 一則

リチウムイオン伝導性ガラス電解質をWO3電極と組み合わせた固体薄膜素子では、電解質・電極表面に擬似二重層容量発生が期待できる。このような全固体型薄膜素子は充放電を行う電気化学キャパシタとして有用であるが、電解質・電極表面の固体−固体間の反応・界面状態は解明されていない。そのため、リチウムガラス電解質に対するWO3電極の形態が界面におけるリチウムイオンの電荷移行反応にどのように寄与するか、その影響を明らかにする必要がある。そこで、低圧マグネトロンスパッタ装置を用いて作製したWO3薄膜電極の粒子形態・結晶配向性を明らかにし、擬似キャパシタの充放電反応にどのように影響するか検討することを目的とした。WO3薄膜表面の配向性については、検討例がほとんど無くその解析が重要である。また、基板材料が薄膜形成に及ぼす影響についても検討した。基板材料には石英ガラスあるいは多結晶Al2O3を用い、膜厚150 nmのPt薄膜を蒸着接合した。その上に膜厚100 nmのWO3薄膜を誘導結合RFプラズマ支援マグネトロンスパッタ(低圧マグネトロンスパッタ)法により成膜し、WO3/Pt複合電極とした。結晶相、配向性はXRD測定により評価した。電解質にはLi2O−B2O3系・Li2O−B2O3−SiO2系ガラスを選択し、同様にX線回折(XRD)測定を行なった。作製セルの特性評価はサイクリック・ボルタンメトリ(CV)法により行った。
石英ガラス基板上に構成したWO3薄膜のX線回折結果から、低圧マグネトロンスパッタリング法により基板温度873 K、プラズマ励起出力150 W、コイル出力50 Wにて成膜した(001)配向WO3薄膜の構造はOrthorhombicであることを明らかにした。Liイオンの拡散挙動は結晶方位の影響を受けることから、このWO3薄膜はLiイオンの拡散に有利であると考えられる。セルのCV測定結果、電極・電解質界面接触が不十分な場合、界面に発生する電気抵抗の影響を受けるために充放電反応が阻害された。この界面における接触面積の増大と配向性WO3薄膜電極の形成が本薄膜素子型キャパシタにおけるスムーズな充放電反応に不可欠であることを指摘した。