秦 誠

酸化物ガラスにおける動的粘弾性測定の確立

松下 和正

これまでガラスは、そのガラス転移温度(Tg)以下では弾性体であると考えられてきた。しかし、その領域においても流動による微小永久変形が存在し、現在の光および電子材料設計分野においてこの解析が望まれている。Tg以下の粘弾性測定として、静的測定法と動的測定法がある。前者は一定応力または歪のもと粘性のみを測定するものであり、測定できる温度, 粘度範囲が限られている。しかしながら、後者は弾性, 粘性成分の短時間同時測定が可能であり、『時間−温度重ね合わせ原理』の応用により広いタイムスケールにわたって解析できる方法である。しかし、動的粘弾性測定法は従来高分子材料を対象としており、酸化物ガラスのような高温で測定できる装置がなく、そのため酸化物ガラスの粘弾性は報告されていない。
本研究では、Tg以下における酸化物ガラスの粘弾性を動的手法により測定し、酸化物ガラスにおける動的測定法を確立することを目的とした。さらに自由体積理論をこれまで測定が困難であったTg以下のガラス固体の粘性において適用し、ガラス構造と粘性の関係について検討した。
試料にはK2O-PbO-P2O5系およびPbO-B2O3系ガラスを用いた。Tg以上では等温ペネトレーション法を、Tg以下では動的手法を用いて粘度測定を行った。動的粘度測定結果の傾向は高分子における実験結果と一致しており、動的粘弾性測定が高分子だけではなく酸化物ガラスについても十分適用可能であると考えられる。また、リン酸塩およびホウ酸塩ガラスの全ての組成においてTgにおける平衡粘度log(η/(Pa・s))はおよそ12となり、静的測定法により求められる粘度とよく一致した。また、温度の低下にともない粘度は増大していき、50℃付近の低温領域において粘度は15−16に近づくことがわかった。動的手法により室温付近からTgまでにおける酸化物ガラスの粘度測定に成功したことから、本研究では酸化物ガラスにおける動的粘弾性測定法を確立することができた。
自由体積理論に基づく粘度式logη=A+BV0/Vfと密度の逆数である比容を用いて粘度測定結果の最適化を行った。得られた定数は組成依存性を示した。本研究では特にV0について検討し、粘性流動に寄与しない占有体積を表すV0はイオン半径と相関があることがわかった。また、ガラスの自由体積はその組成によらずほぼ一定で、流動に寄与しない格子間の自由体積は全体の約40%、流動に寄与する自由体積は全体の約10%であることがわかった。このことから、自由体積理論はガラス固体の粘性においても適用することができた。