中村 明基

α−オキシ水酸化鉄粒子を用いた重金属イオンの優先吸着

佐藤 一則

水質中に溶存する有害重金属イオンの分離回収は、廃水処理において不可欠である。本研究では重金属イオンに対して、高い吸着能を持つ無機イオン交換体であるα-オキシ水酸化鉄(α-FeOOH:Goethite(以下Goethiteとする))に着目し、Goethite粒子を用いた水質中の有害重金属イオンの選択的回収技術の確立を試みた。
Goethiteに対する異種金属イオンの添加効果としてMn2+の10 mol%以上の添加が、Pb(II)イオンに対して高い優先的吸着能をもたらすことを見いだした。さらに、Mn2+の添加によりGoethite粒子の幅に対する長さの比が増加することを透過電子顕微鏡(TEM)観察結果により確認した。一方、Ni2+ 、Ga3+およびCr3+を添加金属イオンとして選択し、出発原料溶液中にそれぞれ10 mol%, 20 mol%添加し作製したGoethite粒子では顕著な吸着特性の向上は見られなかった。
GoethiteのFe3+サイトに置換固溶したマンガンイオンはMn3+として存在すると考えられる。この置換固溶によって生ずるGoethite格子ひずみと表面電位変化が、Pb(II)イオンに対する優先吸着をもたらす機構を考察した。    
純粋なGoethiteにおける粒子異方性が重金属イオンの吸着能に与える影響を、Pb(II)イオン、Cu(II)イオン、およびZn(II)イオンに対して検討を行なった。出発原料, 温度, pH, および熟成・酸化時間の作製条件を選択し、粒子形態の異なるGoethiteを作製した。これらのGoethite粒子の特徴を、X線回折ピーク強度比(I110 / I111)およびTEM観察により明らかにした上で、上記の重金属イオンの吸着に及ぼすGoethite粒子の異方性の影響を検討した。その結果、Goethite結晶粒子における{110}面に対する{111}面の存在比が、純粋なGoethite粒子表面における吸着序列の決定に影響をおよぼすことを明らかにした。また、Pb(II)イオンは、Goethite結晶粒子における{110}面以外の結晶表面にも吸着するが、Cu(II)イオンは優先的に{110}面に吸着することを明らかにした。