加藤 幸人

複合型サーメット燃料極によるメタンのアノード酸化活性化

佐藤 一則

固体酸化物燃料電池(SOFC)におけるメタンの直接使用は、燃料極部におけるメタンの熱分解反応による金属ニッケル粒子表面への炭素析出、および生成COの金属ニッケル粒子表面への強吸着にともなう電極反応活性低下をもたらす。この活性低下は、メタン直接使用のSOFCにおけるセル性能低下の要因となっている。平衡論的にメタンの完全酸化反応は低温において有利であり、メタンの熱分解反応は約650℃以下では起こりにくい。従って、SOFCにおけるエネルギー変換効率を高めるために、メタンの直接使用および700℃以下の低温作動が可能なSOFC開発を本研究は目指した。このためには、従来よりも低温領域において高い酸化物イオン導電率を示す電解質、およびメタンに対する電気化学的酸化反応を活性化させる新たな燃料極材料が必要である。
本研究では低温領域においても高い酸化物イオン導電性を示すCe0.8 Sm0.2O1.9 (SDC) 電解質とメタンの酸化反応活性化が期待できるNi1-XCoX / SDCサーメットに着目した。SDC電解質とNi1-XCoX / SDCサーメット燃料極を用いて構成したSOFCについて、700℃以下の低温作動におけるメタンの直接酸化に対するNi1-XCoX / SDCサーメットの電極性能を検討した。その結果、Ni1-XCoX / SDCサーメット燃料極におけるCoのモル濃度比増加に伴い放電性能 が向上し、X=0.75において最大値を示すことを見いだした。走査電子顕微鏡(SEM)観察、インピーダンス測定、および導電率測定を行い、Coのモル濃度比増加にともなうNi1-XCoX粒子およびSDC粒子の同時成長が、燃料極/電解質界面および燃料極粒子間の接合性向上をもたらすことを明らかにした。さらに、Ni基サーメット燃料極に対するNi-Co合金複合化は、燃料極と電解質の界面抵抗および燃料極のオーミック抵抗を低減することを明らかにした。
本燃料極におけるメタンのアノード酸化反応活性化効果を、生成ガス分析および表面吸着種に対する昇温脱離測定により検討した。金属状態におけるNiへのCo固溶がメタン分子の金属表面への吸着率を減少させ、比較的低い放電電流密度においてはメタンの部分酸化反応活性を高めることを見いだした。一方、高い放電電流密度においては、メタンの完全酸化反応にともなうメタン利用効率の増大を見いだした。
以上の結果は、Ni基SDCサーメットに対するCoによる合金置換が燃料極組織の適正化をもたらすと同時に、メタンのアノード酸化に対して高活性をもたらすことを示している。従って、本論文ではSDC電解質とNi1-XCoX / SDCサーメット燃料極を組み合わせたSOFCが、メタン直接使用によるエネルギー変換効率の向上に有用であることを明らかにした。