松本拓郎

担体投入型膜分離活性汚泥法の実下水処理への適用

小松俊哉 藤田昌一 姫野修司

現在、下水の処理方法の主流として標準活性汚泥法が採用されているが、この処理方法では富栄養化の原因物質である窒素、リンの除去率が約30%程度と低く、高度処理の導入が望まれている。高度処理の一つである膜分離活性汚泥法は高濃度微生物により効率的に窒素・有機物の除去が行える処理方法であるが、膜を用いて処理水を引き抜く処理法であるため、膜の目詰まりが生じるという維持管理上の問題点を抱えている。そのため、膜分離法では膜の目詰まりを抑制するために、膜面の曝気洗浄を行っており、他の処理法と比較して曝気強度が非常に強く、曝気にかかる費用が維持管理費を引き上げている。本研究では反応槽内に担体を投入し、担体が膜面に接触することで膜面付着物の生成抑制及び剥離効果があることと、担体に付着した活性汚泥によって生物処理性能が向上することを期待している。担体により、膜面の曝気洗浄に使われていた曝気強度を削減することができれば、維持管理費の削減に大きく貢献できると考えられる。そこで、担体投入型一槽間欠曝気式膜分離活性汚泥法により実下水(沈砂池越流水)を用いた連続実験(夏季、冬季、各50日間)を行い、実下水処理に適した担体の選定、膜透過性能、有機物、窒素除去性能を評価することを目的とする。本研究の結果、以下のことが明らかになり、担体投入を行う本プロセスの有効性が示された。

1.担体の選定
実用化されている3種類の担体を用いて連続実験を行い、膜透過性能、生物処理性能を比較したところ、膜透過性能、膜間差圧、硝化速度、脱窒速度についてポリウレタン製の担体が最適であった。これより、以下の実験ではこの担体を使用することとした。

2.有機物除去能
いずれも担体を投入した反応槽が、担体を投入しない反応槽に比べ、TOC除去率が高かった。また、沈砂池越流水はTOCの変動が30.5〜240 mg/Lと非常に大きかったのにも関わらず、夏季では95%以上、冬季においても90%以上という非常に高いTOC除去率であった。

3.窒素除去能
担体を投入した反応槽の方が、担体を投入しない反応槽に比べT−N除去率が向上する傾向が見られた。夏季の実験において曝気線速度を従来の曝気強度の2/3の強度に当たる0.4 m/minに設定した系において窒素除去率70%を達成した。また、硝酸性窒素が残存する傾向にあったので、冬季の実験において曝気:非曝気サイクルを30分:30分から20分:40分にしたことにより処理水中窒素濃度を10 mg/L以下にまで低下させることができた。しかし、全体的に昨年の人工廃水の結果より窒素除去率は劣る傾向にあった。これは、基質中の有機物濃度が人工廃水よりも低かったために、C/N比が低く、脱窒が不利であったということが考えられる。

4.膜透過性能
いずれも担体を投入した反応槽が、担体を投入しない反応槽に比べ、膜透過性能が高く維持され、膜間差圧の上昇が緩やかになり、膜透過性能の保持に有利であった。また、夏季の運転において、担体を投入した系では曝気線速度を従来の1/3に当たる0.2 m/minに設定した場合においても膜透過性能膜透過性能が非常に安定していた。担体を投入した反応槽は、担体の膜面付着物剥離効果により、膜面付着物量が少ないことが確認された。また、夏季の運転に比べて冬季の運転では膜透過流束の低下、及び膜間差圧の上昇が著しい傾向が見られた。この原因として、冬季の運転であるため、水温が平均9.8℃と低く(夏季は平均25.4℃)反応槽内の粘性が高くなっていることなどが考えられる。