櫛田浩司

下水汚泥焼却灰の溶融処理を用いた高品質リン肥料作成技術の開発

藤田昌一 小松俊哉 姫野修司

現在、リン(P)は世界規模の枯渇問題から年間利用量の全量を輸入に頼っている日本においては特にリサイクルの促進が重要視されている。それに対し、下水汚泥焼却灰中にはリン鉱石と同程度のPが含まれているため、下水汚泥中のPを有効利用することは循環型社会の形成において重要である。そこで、下水汚泥焼却灰の有効利用とPの循環利用の観点から、より付加価値の高いPの有効利用方法として、本研究では焼却灰からリン肥料を製造する技術の開発を行なうこととした。下水汚泥焼却灰の組成は季節,処理地域,処理方法などによって大きく異なり、高品質のスラグ肥料を作製可能な条件を明確化する必要がある。そこで、スラグ肥料として求められる肥効成分含有量,還元雰囲気でのスラグ肥料への成分移行率から決定したリン肥料作製可能範囲の灰組成のモデル灰を化学試薬によって作製し、肥料としての性能を確保できる灰組成範囲の検討を行った。
まず、溶融雰囲気による比較として同一組成の灰を用いて酸化および還元雰囲気でスラグ肥料を作製した結果、Pは灰組成中の約7割がスラグ中に固定可能であり、その他の肥効成分はほぼ全量がスラグ中に固定することを確認した。そこで、P,Mg,Siなどの揮発量を考慮し、肥料取締法によって規定されている品質基準を満たすことのできる灰組成範囲を検討した結果、灰組成中にP2O5量17wt%以上,MgO量15wt%以上,アルカリ分40wt%以上必要であると考えられた。この範囲内となるモデル灰を決定し、灰組成による影響の検討を行った結果、灰組成をリン肥料作製可能範囲内に調製することで、ほぼ肥料の品質基準を満たすことが可能であることを明らかとした。しかし、P2O5/SiO2=0.65となる灰組成においてはPとSiの競合によってPの揮発が促進し、肥料基準であるク溶性P2O5量12wt%を満たせなかったことから、P2O5量が少なく、SiO2量が多い灰組成に対してはP2O5の揮発に関して注意が必要であることがわかった。
さらに、下水汚泥焼却灰の実灰にMgOおよびCaOを添加し、リン肥料作製可能範囲内とした調製灰を用いて検討を行った結果、肥料品質基準を満たすことができるスラグ肥料が作製でき、モデル灰での検討結果が実灰でも適用可能であると考えられた。
また、実灰を用いて作製したスラグ肥料中のPb,Cr含有量は肥料取締法基準を十分満たすことを確認した。さらに、ク溶性試験によって、肥効成分P、Mg、K、Siなどが選択的に溶出し、重金属類の溶出率は低いことを明らかとした。