吉川史江

UASBリアクターによるプロピオン酸の処理特性および保持汚泥微生物叢の生態解析

原田秀樹、大橋晶良、井町寛之


 近年、新たな嫌気性廃水処理技術として55℃付近で運転する高温嫌気性廃水処理プロセスの開発が行われている。しかしながら、高温プロセスは中温プロセスに比べ、環境変動に弱くプロセスの維持管理が困難である。特に、その運転が不安定な際にプロピオン酸がプロセス内に蓄積し、処理プロセスの破綻を招くことが問題となっている。

 そこで本研究では、プロピオン酸蓄積の問題について解決する手がかりとして基礎的な知見を収集することを目的とし、高温および中温UASBリアクターを用いてプロピオン酸単独基質での長期連続処理実験を行い、その処理特性や分子生物学的手法を用いて保持微生物叢の解析を行った。

 プロピオン酸単独基質での高温UASBリアクターの連続運転を行った結果、運転開始後122日目から154日目の約30日間間で、最大許容COD容積負荷20kgCOD・m-3・d-1を許容し、常時COD除去率は94%程度と良好な処理状況を示した。また、中温UASBリアクターでは、運転開始後83日目から117日目の約34日間間で、最大許容COD容積負荷40kgCOD・m-3・d-1を許容し、常時COD除去率は98%程度であった。最大許容COD容積負荷時でのメタン生成活性試験を行った結果、プロピオン酸を基質とした系では、高温0.30gCOD・gVSS-1・d-1(植種汚泥の約15倍)、中温0.94gCOD・gVSS-1・d-1(約1.4倍)と高い活性を示した。

 分子生物学的手法を用いて保持汚泥の微生物叢の解析を行った結果、高温と中温では優占菌種が異なり、高温では既にプロピオン酸酸化共生細菌として分離・培養されているPelotomaculumthermopropionicum. Satrain SIが最も多く存在した。

 これらの知見から、Pelotomaculumthermopropionicum. Satrain SIの生理学的特徴をリアクターの運転条件に適用することにより、プロピオン酸蓄積を解決する有力な手法となりうることが示唆された。