幡本 将史

 
分離培養の困難な嫌気性高級脂肪酸酸化共生細菌の分離・同定

 

 大橋 晶良,原田 秀樹,井町 寛之

 

 高濃度脂質含有廃水は,嫌気性処理への適応が難しい廃水種の一つである.
その理由は脂質の加水分解に伴って生成する高級脂肪酸に起因している.従い,
効率的な高濃度脂質含有廃水の嫌気性処理を行なうためには,高級脂肪酸の分解に
関与する微生物の基礎的な情報が必要であると考えられる.しかしながら,メタン
生成環境下での高級脂肪酸の分解には,メタン生成古細菌と高級脂肪酸分解細菌と
の強固な共生関係が熱力学的な制約から必須であるため,その分離・培養は困難で
あり,知見は少ない.そこで本研究では,従来の培養法に加え分子生物学的手法を
併用することにより嫌気性高級脂肪酸分解細菌の分離を試みた.

 高級脂肪酸分解細菌の集積培養を行なう為に,植種源として,パームオイル製造廃
水処理を行っていた中温性 (35°C) と高温性 (55°C) の2種類の嫌気性グラニュール
汚泥を使用した.人工培地にパルミチン酸 (C16),ステアリン酸 (C18),オレイン酸
(C18:1) およびリノール酸 (C18:2) の4種類を基質 (各1 mM) としてそれぞれ別々に
用いて,高温性汚泥を植種源としたものは55°Cで,中温性汚泥は37°Cで嫌気的に培養
を行った.

 高級脂肪酸を用いて上記のように8つの集積培養を構築し培養を行った.その結果,
最終的に7つの集積培養系を維持する事ができたが,それらの増殖は遅く (高温集積系
では2週間程度,中温集積系では1-2ヶ月) また培養系は不安定なものであった.これら
集積培養系は高級脂肪酸を消費しメタンを生成しており,培養系内の顕微鏡観察の結果
メタン生成古細菌に特有なF420様の自家蛍光を持つ微生物とその他数種類の形態の異な
る微生物が存在していた.次に高級脂肪酸の分解に関与している細菌を分子遺伝学的に
同定するために細菌 (Bacteria) の16S rRNA遺伝子のクローン解析を行った.その結果,
高級脂肪酸の分解を担っている細菌は,既知の高級脂肪酸分解細菌群として知られている
Syntrophomonadaceae科のみでなく,これらとは系統学的に全く異なるグループの細菌も
関与している可能性が示された.また高頻度に検出されたクローン配列に特異的なプローブ
を作成し, FISHを行なった結果,これらの細菌が集積系において優占している事も確かめた.
そこでこれら集積培養系内に優占して存在している細菌の分離培養を試みた.
その結果,Syntrophomonadaceae科に属する新規な高温性及び中温性の高級脂肪酸分解細菌の
純粋に近い培養系を得る事ができた.またFirmicutes門に属する新規な細菌の分離にも成功した.