遠山 明

マルチフィード方式による高温UASB法のアルカリ度削減効果

原田秀樹、大橋晶良、井町寛之


 UASB法は易溶解性産業廃水などに対して成熟した技術であり、既に普及・発展しているメタン発酵プロセスである。現在稼働しているUASBリアクターは廃水をリアクター底部に供給する単一フィード方式のため、供給口付近で有機物の分解に伴い集中的な酸生成反応が発生してpHが減少するために良好な処理が望めなくなる。このpH低下を防ぐためには多量のアルカリ剤を使用する必要があるが、アルカリ剤コストが主要な経費となるため、アルカリ剤の削減が望まれている。

 そこで現行の単一フィード方式に替わるマルチフィード方式により、廃水を高さ方向に分散供給することで集中的な酸生成反応を分散化できると考えられるため、添加するアルカリ剤の削減が期待される。

 よって研究では、低アルカリ度添加条件における単一フィードとマルチフィード方式による比較実験を行い、マルチフィード方式によるアルカリ度削減効果を評価した。

 実験では多段型UASBリアクター(全長87.5cm、容積8L)を使用した。供給廃水は焼酎蒸留粕廃液を使用し、アルカリ剤として重炭酸ナトリウムを添加した。単一フィード方式ではリアクターの最下部(0cm)一箇所に供給を行い、マルチフィード方式ではリアクターの最下部から高さ方向(0cm、8cm、16cm)に順次供給を行い、各供給時間は高さ方向に5:3:2として1HRTで3サイクルするように供給した。

 容積負荷50kgCOD/m3・d、廃水濃度10,000mgCOD/L、HRT4.8hの条件下で、単一フィード方式では添加NaHCO3濃度を0.09gCaCO3/gCODまで削減したことで、処理水アルカリ度が138mgCaCO3/Lまで減少したため、処理水pHが5.9まで低下し、COD除去率も42%まで著しく低下した。一方、マルチフィード方式では、添加NaHCO3濃度0.02gCaCO3/gCODまで削減しても、処理水アルカリ度622mgCaCO3/L、COD除去率71%で処理水pHも高いことから良好な処理が行われた。

 よってマルチフィード方式では、単一フィード方式と比較し添加NaHCO3濃度を約1/5(0.02/0.09)まで削減しても良好に処理が行われたことから、マルチフィード方式によって大幅にアルカリ剤が削減できることが実証された。