酒井 早苗

嫌気共生培養系を利用した未培養系統分類群に属するメタン生成古細菌の分離・培養

大橋 晶良、原田 秀樹、井町 寛之


 従来、水素資化性のメタン生成古細菌の培養は自然環境中ではあり得ない高水素分圧下 (ca.200 kPa) で行われてきた。しかし、このような条件で培養を行うと増殖速度が速く、かつ水素に対して高い親和性を要求しないメタン生成古細菌が選択的に培養される可能性が高い。そこで我々は、低分圧の水素を連続的かつ緩やかに供給可能な方法として‘嫌気共生培養系’に着目し、見場異様なメタン生成古細菌の分離を試みた。

 10種類の嫌気環境サンプルを植種源として、嫌気共生系によって分解されるエタノール、酪酸及びプロピオン酸を基質として集積培養を行った。また、これらの対照系として、高水素分圧下での培養とギ酸での培養も行った。

 水素及びギ酸の培養では、培養日数3日程度でメタン生成古細菌に特有なF420様の自家蛍光を持つ微生物の増殖を確認することができた。集積培養系内にどのような微生物が存在しているかを調べるために、これらの集積培養系に対して古細菌の16S rRNA 遺伝子を標的としたクローン解析を行った。その結果、得られたクローンの多くは Methanobacterium 属等の既知のメタン生成古細菌の16S rRNA 遺伝子と97%以上の高い相同性を持つものであった。

 一方、嫌気共生培養系で分解されるエタノールでの集積培養には1週間、酪酸及びプロピオン酸では1-3ヶ月程度を要した。その時の水素分圧は、エタノールの集積系では 20-100 Pa 程度、酪酸及びプロピオン酸の培養系では数十 Pa程度と低く保たれていた。これらの培養系内には数種の形態が異なる微生物が確認でき、それらはメタン生成古細菌と嫌気共生細菌と推測された。これら集積培養系に対して古細菌のクローン解析を行った結果、既知のメタン生成古細菌と97%以上の高い相同性を示すクローン配列が検出された培養系もあったが、プロピオン酸を基質としたいくつかの集積培養系から、 Methanomicrobia 綱に属する未培養なメタン生成古細菌のグループであるRice Cluster Iに属する配列 やMethanomicrobiales目の未培養なメタン生成古細菌のグループであるMM-1に属する配列などが高頻度に検出された。次に、これらプロピオン酸集積培養系を植種源として、一般的にメタン生成古細菌が単独で利用可能な水素やギ酸を基質に用いて未培養なメタン生成古細菌の分離を試みた。その結果、約1年を費やしMethanomicrobiales目に属する新属を代表するメタン生成古細菌 (TNR株) をほぼ純粋培養することに、またMethanomicobia 綱のRice Cluster Iに属する新目を代表するメタン生成古細菌 (SANAE株) を純粋培養することに成功した。

 以上の結果から、嫌気共生培養系を用いた培養方法は、未培養系統分類群に属するメタン生成古細菌を選択的に分離・培養できる1つの有効な手法となり得ることがわかった。