大久保努

開発途上国のためのエネルギー最小消費型新規下水処理プロセスの開発 −インドでの大規模実証試験−

原田秀樹、大橋晶良


 近年インドでは、「聖なる」ガンジス川とその最大支流であるヤムナ川が、流域都市から排出される生活排水や工業廃水の増大に伴い水質悪化が深刻な問題となっている。この二大河川を対象にインド政府・環境森林省(MOEF)・河川環境保全局(NRCD)はガンジス川浄化計画事業(GAP)とヤムナ川浄化計画事業(YAP)を実施した。

 このYAPによりヤムナ川沿いの16カ所に、上昇流嫌気性汚泥床(UASB)法が導入された。UASB法は維持管理が容易で省エネルギー、低コスト型の下水処理プロセスとして、開発途上国の下水処理技術として注目されている。しかし、UASB法単独の導入では、流入下水の6割前後の有機物除去率しか望めず、有機物や病原菌の除去において放流基準を満たしていないのが現状である。インド政府はその後段処理プロセスとしてFPU(安定化池)法を導入しているが、実地調査より16カ所全てのUASB/FPU処理水は排出基準を満たしていないことが明らかとなった。

 そこでMOEF及びNRCDは我々の研究グループが長年にわたり研究・開発を続けてきたUASB法の後段処理法であるDHS(Downflow Hanging Sponge)法に着目し、インド・ハリアナ州カルナール市の下水処理場に世界初となるDHS実規模プラント(最大下水処理量1000m3/day)を建造し実証試験を開始した。私は実際に現地に長期滞在し、本下水処理システムの処理性能を連続モニタリングしたので報告する。

 750日間のモニタリング結果より、インド政府側が提案するUASB/FPU法は、全CODcr除去率67%、全BOD除去率70%、アンモニア性窒素除去率4%、ふん便性大腸菌群の対数除去率は0.8logであった。一方、我々が提案するUASB/DHS法は、全CODcr除去率92%、全BOD除去率96%、アンモニア性窒素除去率82%、ふん便性大腸菌群の対数除去率は1.9logであった。DHSは人為的エアレーションを必要としない好気性処理法であり、温度変化の激しい気候条件でも安定したパフォーマンスを発揮し、開発途上国においても十分適用可能な技術であることが証明された。

 この卓越したDHSの処理能力はインド政府からも非常に高い評価を得ており、現在インド・アグラ市およびナシーク市に実機DHS(十万人規模)の導入計画が進行中である。