丸山 和大

酵母Cryptococcus humicola UJ1由来D-アスパラギン酸酸化酵素の基質結合部位の解析

 
山田 良平  解良 芳夫  高橋 祥司


 D-アスパラギン酸酸化酵素 ( DDO ) は酸性 D-アミノ酸の酸化的脱アミノ反応を触媒するフラビン酵素である。本研究では、酵母Cryptococcus humicola UJ1のDDO ( ChDDO ) において、酸性D-アミノ酸に対する基質特異性を付与する推定されたアミノ酸残基を部位特異的変異導入により改変し、その役割を明らかにすることを目的とする。

 まず初めに、ChDDOの精製を簡便に行うために、ChDDOのC末端にヒスチジンタグを有するChDDO ( ChDDOHis ) の作成およびその精製法について検討した。大腸菌で発現させたChDDOHisは活性を有し、種々の条件検討の結果、金属アフィニティーカラムとゲルろ過カラムを併用することにより、単一に精製することが出来た。

 ChDDOの酸性D-アミノ酸に対する基質特異性に関与するアミノ酸残基として、R230、R243が既に当研究室において推測され、これらの残基をアラニンに置換した変異酵素R230AChDDOHisとR243AChDDOHisが作成されている。したがって、次に、これらの変異酵素を精製し、その諸特性を比較解析した。ChDDOHisのD-アスパラギン酸に対する比活性を100%とすると、R230AChDDOHisは13.6%へと減少し、R243AChDDOHisでは0.05%と非常に低い値を示した。各変異ChDDOHisのD-アスパラギン酸に対するKm値はほぼ同程度で、ChDDOHisより増加した。興味深いことに、R230AChDDOHisのD-グルタミン酸に対するKm値はChDDOHisの値より低かった。このことは、基質結合ポケットの拡大を意味し、R230が基質    結合部位の構造形成に何らかの形で関与していると考えられた。各変異ChDDOHisの可視スペクトルを解析したところ、フラビン酵素特有のスペクトルがみられ、各変異ChDDOHisにおけるFADの結合が明らかとなった。D-アスパラギン酸添加後のスペクトルを解析したところ、R243AChDDOHisにおいてピークの消失に時間を要した。また、R243AChDDOHisにおいては阻害剤の結合によるピークのRed-shiftがほとんど起きなかった。以上の結果より、ChDDOにおいてR243が酸性アミノ酸の側鎖との相互作用に重要な役割を担っていると考えられた。