鶴巻 絵理

酵母Cryptococcus humicola UJ1の薬剤耐性遺伝子発現ベクターの構築

山田 良平、解良 芳夫、高橋 祥司

当研究室ではD-アスパラギン酸酸化酵素を多量に生産する酵母Cryptococcus humicola UJ1を自然界から単離し、本酵母の生産するD-アスパラギン酸酸化酵素(ChDDO)の酵素学的諸特性を明らかにしてきた。その結果、本酵母はD-Aspを唯一の窒素源、炭素源、もしくは窒素源と炭素源としたときにのみChDDOを多量に誘導合成し、D,L-グルタミン酸やL-Aspでは誘導しなかった。また、他の利用しやすい窒素源、炭素源の共存下でもChDDOは誘導発現され、その発現は転写段階で制御されていた。このことから本酵母においてD-Asp特異的な遺伝子の誘導発現機構の存在が示唆された。
当研究室ではこの発現機構を解明するために必須となる宿主-ベクター系の構築を検討している。現在までに栄養要求性の選択マーカーであるURA3遺伝子を用いた宿主-ベクター系を構築しているが、遺伝子の多重導入や多重破壊のためには他の選択マーカーが必要である。そこで本研究では薬剤耐性遺伝子を選択マーカーとした宿主-ベクター系を構築することを目的としている。薬剤耐性遺伝子を発現させるためには、導入細胞由来のプロモーター配列を必要とする。そのプロモーターとしてよく用いられているのが、アクチン遺伝子のプロモーターである。アクチンは真核生物において最も多量に存在するタンパクであり、構成的に発現することが知られている。本研究ではアクチン遺伝子のプロモーターおよびターミネーターを利用した宿主-ベクター系の構築を検討した。
当研究室ではアクチン遺伝子の組込まれ方が異なる2種類のファージクローンが単離されている。これらにはアクチン遺伝子全長とプロモーターおよびターミネーター領域は含まれていなかったが、2種類のファージクローンをあわせるとアクチン遺伝子の全長とそのプロモーター領域とターミネーター領域が得られることがわかっている。そこで2種類のファージクローンからアクチン遺伝子およびプロモーター、ターミネーター領域を単離し、塩基配列を解析した。その結果、本酵母のアクチン遺伝子は開始コドンから終止コドンまで1,509 bpからなり、375アミノ酸からなるポリペプチドをコードしていた。また、オープンリーディングフレームは6つのイントロンで分断されていた。本酵母アクチンの推定アミノ酸配列は同じ担子菌に属する生物のアクチンと高い相同性を示した。単離したアクチン遺伝子にはプロモーター領域が十分には含まれていなかったので、さらにTAIL-PCRによりアクチン遺伝子の上流領域の取得を試み、1,291 bpの5'非翻訳領域を解析した。