上戸 潤

難分解性Tris (1,3-dichloro-2-propyl) phosphateの微生物分解

指導教官  山田良平、解良芳夫、高橋祥司

Tris (1,3-dichloro-2-propyl) phosphate(TDCPP)は、難燃剤、潤滑油添加剤などの用途において使用されている、代表的な含塩素有機リン酸トリエステル類であり、様々な毒性を有していることから、その使用に伴う環境への浸出が懸念されている。しかしながら、TDCPPは物理化学的に非常に安定であり、微生物により分解されるという報告も得られていない。当研究室では、昨年度、TDCPPを唯一のリン源とした完全合成培地を用いてTDCPP分解能を有する微生物のスクリーニングを行い、TDCPPを分解させる集積培養液No. 45Dが得られている。そこで本研究では、No. 45Dの有する能力およびNo. 45D中の微生物について解析を行った。
これまでの研究では、TDCPP分解による代謝産物は同定されていないため、代謝産物として塩化物イオンを想定し、その濃度の測定を行った。その結果、TDCPPの消失後に塩化物イオンの遊離が観察され、TDCPPの分解産物として塩化物イオンが生成されることが明らかとなった。続いて、No. 45DはTDCPPを唯一のリン源として利用しているため、TDCPPよりも利用し易いリン源と考えられるリン酸二水素ナトリウムの存在下で、その分解が妨げられるかを解析した。その結果、無機リン酸塩の存在によりTDCPP分解が若干抑制されることが明らかとなった。また、0.2 mMのリン酸二水素ナトリウム存在下において塩化物イオン遊離量が著しく増加したため、無機リン酸の存在が塩化物イオン遊離量を増加させることが明らかとなった。これらの結果から、No. 45DにはTDCPP分解微生物と塩化物イオン遊離微生物が別々に存在し、十分なリン源を確保可能な無機リン酸塩存在下でのみ塩化物イオン遊離微生物が十分に生育した可能性が示唆された。続いて、No.45Dが、TDCPPの代謝産物と想定される1,3-dichloro-2- propanol(1,3-DCP)を分解する能力を有しているかを解析した。その結果、No.45Dは1,3-DCP分解能を有しており、培地中の無機リン酸塩濃度がその能力に多大な影響を及ぼすことが示唆された。また、無機リン酸塩濃度と塩化物イオン遊離量の関係が前述の結果と類似したため、TDCPPの代謝産物として1,3-DCPが生成されている可能性が示唆された。続いて、抗生物質を用いて、No. 45D中に存在する微生物について調べた結果、No. 45D中に存在する微生物は原核生物であることが示唆された。さらに、16S rDNA部分遺伝子断片を利用したDGGEにより、No. 45D中の微生物についての解析を行った結果、No. 45Dには複数種の微生物が存在し、培養条件および培養時間の経過により、その微生物群集構造に変化が生じることが明らかとなった。