山本隆広

ランダムカスケードモデルによる基本高水流量の算出について

陸旻皎

基本高水流量は洪水防御の基本となる流量であり、洪水防御の基本概念は基本高水流量までの洪水はハード対策、基本高水流量以上はソフト対策を施すものである。現在、長野県知事の脱ダム宣言を始め、ダム建設是非問題が深刻化しており、基本高水流量算定過程の問題点が指摘されている。具体的には、実績降雨の選定(10個程度)及び引き伸ばし、カバー率の選択などであり主観的な判断を必要としている。近年、降雨のフラクタル性に注目したランダムカスケードモデル(RCM : Random Cascade Model)が検討されてきた。RCMは降雨の時空間分布に自己相似性があることを仮定し、ある領域を代表する物理量が与えられたときに、その分布特性に従って降雨をdisaggregateするモデルである。本研究では、1級河川土器川祓川橋上流域を対象に実績降雨に変わる方法としてRCMにより計画降雨量から実際に起こり得る可能性のある計画ハイエトグラフを多数発生させて、流出モデルに入力し、得られたピーク流量の分布特性を通じて、RCMの基本高水流量算定への応用可能性について検証した。その結果、得られたピーク流量の頻度分布の平均値は現行の基本高水流量と比較的近い値を示した。 100年確率日降雨量に対するピーク流量分布は年最大日雨量分布における再現期間T(確率年)の1つである。実際には様々なT年確率日雨量に対するピーク流量分布が存在する。それらすべての分布を条件付確率により重ね合わせることで、年最大日雨量分布に対応する流量分布Qdist.を算出することができる。Qdist.を統計解析することで、都市化や大規模な貯留施設の設置による流域改変の影響を受けずに確率流量を算出することができる。Qdist.を算出した結果、非超過確率が大きいところで、観測値と比較的近い値を示し、降雨空間分布の影響の小さい流域での適用可能性を示唆した。さらに、上記によって得られたQdist.を用いて、確率降雨量により基本高水流量を算出する標準的な手法におけるカバー率を評価した。カバー率は50%になるはずと思い込まれているが、50%になるとは限らないことを示した。本研究では再現期間に依らずカバー率は60%程度であった。