鈴木 幸憲

実環境下におけるコンクリート部材への塩分侵入に関する実験的研究

指導教官:下村 匠


 ひび割れが関係する劣化形態の代表的なものとして,塩化物イオンの侵入による鉄筋腐食がある.ひび割れが存在すると鋼材腐食促進物質(水分,塩化物イオンなど)の侵入経路となり,内部の腐食が促進される.

 しかし,ひび割れを有するコンクリート中の物質移動現象については,数値解析と限られた条件下の実験室的実験により検証されているに過ぎず,長期に渡る暴露,乾湿繰返しなどの影響を受ける現実の供用条件の下で,ひび割れを有するコンクリート中の塩化物イオン移動を実験的に検証した例は少ない.本研究は,ひび割れ幅がコンクリートの塩化物イオン濃度の分布に及ぼす影響に焦点をあて,コンクリートの品質,鉄筋配置及び長期暴露の影響について実験的に検証することを目的とした.


 まず始めに,鉄筋腐食に対する設定環境を,腐食性環境下とし長期暴露実験を実施した.暴露実験後,試料採取をし,塩化物イオン濃度測定を行った.本研究室で行われた短期暴露実験と長期暴露実験の塩化物イオン濃度との比較,鉄筋配置の違いが及ぼすコンクリート供試体内の塩化物イオン濃度分布についての検討を行った.短期暴露との比較より,鋼材腐食促進物質がひび割れを侵入経路として侵入するという既往の研究を検証し,鋼材腐食促進物質である塩化物イオンの侵入は,暴露期間(時間)の長さに依存するとわかった.鉄筋配置の違いの比較から,藤田(2002)の研究で示唆された鉄筋に沿った塩化物イオンの移動を,暴露実験によって確認することができた.

 次に,本研究室において開発された数値解析プログラムで,暴露実験の数値解析シミュレーションを行った.数値解析による短期暴露と長期暴露の比較,長期暴露と数値解析の比較を行った.その結果,数値解析において塩化物イオンの侵入を定性的に表現することができた.しかし,解析より定量的に表現するためには環境作用のモデル化の検討が必要となった.


 また,水分移動解析手法に用いられるコンクリート中の水分移動は,理論的に2つの水分移動(液状水移動,水蒸気移動)共に生じるとして仮定され,定式化されている.しかし,全てがコンクリート中の水分移動について,実験により検証されているわけではない.そこで,コンクリート中の水分移動と考えられている液状水移動と水蒸気移動について実験的検証を目的に実験を行った.結果として,コンクリート中の水分移動をモルタル供試体による水分移動実験で検証することができた.