永島 勝

コンクリート構造物への飛来塩分の影響因子に関する感度解析

指導教官:下村 匠 助教授

鉄筋コンクリート構造物の耐力低下の主要因には,海から飛来する塩分による劣化がある。構造物に到達する飛来塩分は,風および波などの巨視的な条件だけではなく,構造物形状および周辺地形など局所的な条件の影響を受けることが知られている。そのため,これらの条件を考慮可能な手法によって,構造物に到達する飛来塩分を評価することが望まれる。
本研究では,波や風などの気象条件,海岸からの距離,構造物形状,周辺地形などの幾何学的条件が,沿岸部に置かれた構造物に到達する飛来塩分量に与える影響を,数値シミュレーションによりどの程度の精度と適用性をもって表現できるか検討した。数値シミュレーション法は,海岸工学分野において開発された山田・細山田の方法を採用した。
本研究により得られたことを以下に示す。
(1)飛来塩分量は,構造物を海側の面,上面および陸側の面の3面に分けた場合,海側から吹いてくる風に直接当たる海側の面に多く到達し,次いで上面に多く,陸側の面では他の面に比べ少ない。
(2)構造物に到達する飛来塩分は,海側の面および陸側の面では,構造物の地上付近では到達飛来塩分量は少ないが,高さが高くなるにつれ到達飛来塩分量が多くなる。また,上面では海側が多くなる。
(3)海岸と構造物の距離が短くなるにつれ,到達飛来塩分量は多くなるが,海側の面では,地表付近に到達する飛来塩分量と頂上付近に到達する飛来塩分量の差が少なくなる。
(4)構造物の高さが高くなると,海側の面では到達飛来塩分量が増加するが,上面および陸側の面では減少する。これは,構造物手前で風が弱くなり飛来塩分が停滞したためである。
(5)構造物の背面に壁があると,いずれの面でも到達飛来塩分量は減少する。これは,壁があることによって構造物手前に大きな風の層ができ,この層が飛来塩分を構造物に飛来するのを阻んでいるからである。
(6)風速が大きくあるいは飛来塩分の直径が小さくなると,到達飛来塩分量は多くなると思われるが,計算上は,一定の傾向を表さなかった。これは,計算では飛来塩分の地表への落下を考慮できていないためである。
(7)波波高が大きくなると発生飛来塩分量が多くなるので到達飛来塩分量も多くなる。また,波高が変わっても分布の形状は相似になり,場所によるばらつきは変わらない。
(8)実測値と比較した場合,距離が遠くなるほど,実測値と計算値との誤差が大きくなる。この原因としては,計算値で使用した風速の値が小さかった,あるいは飛来塩分の直径が一定であったために飛来塩分の距離による減衰が現実よりも大きかったことが考えられる。