莖澤 絵理架

電気化学的脱塩工法の適用によるPC鋼材への影響

指導教官:丸山 久一


 塩害等により既に断面欠損の生じたPC鋼材を含むPC部材に電気化学的脱塩工法を適用した場合,応力集中の生じている断面欠損部分で,水素を吸蔵することによる鋼材の遅れ破壊が生じる可能性があり,鋼材の破断が懸念される。本研究では,プレテンションPC部材に対する脱塩工法の適用性を実験的に確認することを目的とした。あらかじめ電食によりPC鋼材を腐食させたプレテンションPC部材に電気化学的脱塩工法を適用することでPC鋼材の破断を実験的に検討した。実験では,電流の大きさや通電期間を変数とした脱塩処理を行った。遅れ破壊は,鋼材中に吸蔵された拡散性水素が原因であるという報告がある。そこで,本研究では,脱塩工法の適用によるPC鋼材中の拡散性水素量を測定した。また,脱塩効果および鋼材の腐食抑制効果を確認するために,脱塩工法適用後の供試体中の残留塩分量とPC鋼材の自然電位を測定した。

 本研究により,得られた結論を以下に要約する。
(1) 脱塩工法の適用によるPC鋼材の破断は無かった。また,断面欠損程度によらず,PC鋼材は破断しなかった。
(2) 脱塩処理直後にPC鋼材中に吸蔵されている拡散性水素の量を把握することができた。本実験程度の吸蔵水素量であれば,脱塩工法の適用による鋼材の破断は生じないといえる。
(3) 通電を停止することで,PC鋼材中に吸蔵された水素は速やかに拡散されることが確認された。
(4) PC鋼材の自然電位測定結果より,脱塩工法適用後において鋼材近傍に塩化物イオンが残留していても,腐食抑制効果が発揮されていることが確認できた。

 以上より,本実験の範囲では,プレテンションPC部材へ脱塩工法を適用することによる問題は生じなかった。従って,実際に供用されているPC構造物への脱塩工法の適用は,問題ないといえる。
また,本実験の範囲内で,連続通電の安全性が確認された。間欠通電の安全性も再確認された。脱塩工法適用中に標準電流密度での施工や積算電流量までの管理を行うことで通電を制御すれば,これまで避けられてきた連続通電による施工も可能になると考えられる。
PC構造物に対して,連続的でかつ大きな電流による脱塩処理を行うことは,工期短縮に直結しコストの縮減にも結びつく。本研究の範囲内において連続通電の有効性が確認されたことから,今後,PC構造物へ連続通電を適用する際の糸口となるであろう。