PHAN QUY THANH

連続合成桁の初期ひび割れ状態を考慮したひび割れ幅制御設計法の提案

長井 正嗣,岩崎 英治


連続合成桁の設計上の問題点として,中間支点位置で発生する負曲げモーメントに起因するコンクリート床版のひび割れ対策,対処法が挙げられる.床版のひび割れ発生は,床版自体の,あわせて合成桁そのものの耐久性に大きな影響を与えることになる.
このひび割れ対策として,プレストレスを導入する方法と,プレストレスを導入せず,ひび割れ幅を制御する方法がある.前者の方法では,床版にプレストレスを導入して,床版を常に圧縮状態とし,ひび割れの発生を防ぐことができるが,コンクリートのクリープ,収縮に起因するプレストレスの抜けへの対処の問題また導入作業によるコストアップの問題がある.また,コスト縮減が強く求められる昨今の情勢の中では,プレストレスを導入せず,発生するひび割れ幅を制御する後者の設計法が主流になりつつある.

 

さて,我が国では,現在まで3通りの設計法が提案されている.一つは,道路橋示方書に規定される方法である.中間支点部において,最少でも2%(鉄筋断面積/コンクリート断面積)の鉄筋を配置し,あわせて周長率(鉄筋の周長/コンクリート断面積)0.0045mm/mm2の確保が規定される.これにより,繰り返し載荷においても,ひび割れ幅が0.2mm程度以下に制御できるとされているが,ひび割れ幅そのものを算定する数式は具体的に示されていない.残りの2つ方法は,(社)日本橋梁建設協会と(財)高速道路技術センターから最近リリースされたもので,コンクリート標準示方書に示される,コンクリート桁(曲げ部材)のひび割れ幅算定式をベースに,鉄筋応力として,合成桁としての応力を用いる形をとっている.本論文の第3章で詳しく説明するが,両者は応力の評価方法に差異があり,若干の混乱がみられる.
以上より,本研究では,これまで提案された方法の相違とともに問題点を指摘し,実情を再現できると考えられる新しい設計法を提案する.


本研究で得られた成果を要約すると以下のようになる.
(1)初期ひび割れ状態と安定ひび割れ状態を使い分ける新たな設計法を提案した.
(2)本手法により,現行法で要求されるジャッキアップ,ダウンによるプレストレスの導入や鉄筋の大幅なアップ(3%近く)を不要とできる.
本研究では基本的な考え方をしめしたが,設計式に用いた係数は過去に提案された値を用いている.今後,実験等により改善していく必要があると考えている.