八木 健太郎

乱流モデルを用いた鉛直サーマルの数値解析

福嶋 祐介

鉛直密度流は,海洋汚染防止や廃水処理の関連で関心が持たれている.数値解析して実験の結果と比較することで,現象の本質を明らかにし,環境汚染の予測や防止に役立てる.これまでサーマルの流動はサーマル理論により解析されていた.サーマルモデルそのものは,モデルの構成が簡単であるから計算時間が極めて少ないという長所がある.その反面,モデル自身に空気の連行係数やサーマルフロントに働く抗力係数を含むことになる.本研究ではこれらのパラメータを必要としないk-ε乱流モデルを用いて解析する.これは渦動粘性係数の概念に基づき,乱流運動エネルギー と分子粘性逸散率 を未知数として,乱流場を再現するものである.また,それぞれの輸送方程式の離散化手法としては,S.V.PatankarによるSIMPLE法を採用した.プログラムの妥当性を検証するために,福嶋・田中(2001)の鉛直重力流フロントの室内実験に計算条件を合わせて計算をした.塩分濃度が1%,3%,5%についての鉛直サーマルを対象とし,実験結果と比較した.
鉛直サーマルの流下速度は流入条件の影響で初期に急激に減少するが,その後の低減部では実験とほぼ同様の結果を得られた.流下幅は3%と5%では直線的に増加し,実験値とよく似た結果となった.1%の時は実験値より大きな値となったが,直線的に変化しない傾向は実験値にも見られる.以上から,このモデルで鉛直サーマルをある程度再現できることが確認できた.また,流速ベクトルと濃度コンター図を同時に描くことにより,鉛直サーマル内部の流速と濃度の関係を表した.濃度の最も濃い部分の外側後方よりの場所を中心として渦を形成していることを明示した.濃度コンター図を一定時間間隔で表示することにより,サーマルの流動を表現することができた.濃度が高いほどサーマルの発達は早くなる.それに伴い濃度も希薄になることを確認できた.
流下距離,流動幅の算定するとき,どの濃度を基準にするかが大きな問題となる.本研究で用いた方法では,流入直後であまり良い結果を得られなかった.より良い結果が得られる算定方法を検討する必要がある.また,領域内に水平方向の流れを与えて密度流を流入することにより,流水中での密度流に適用することができる.実現象では流れの中に密度流が流入することが多いため,今後解析し現象を明らかにすることは価値がある.