土佐啓幸

地中音による地すべり予測に関する基礎研究

宮木康幸


 我が研究室では,地すべりに対しCCDカメラを用いた斜面監視システムを開発している.このシステムは斜面の地表だけが監視の対象となっている.そこで,地すべり発生前に地中音で予測できるのではないかと考え,平成12年度から音響的手法を用いた地すべり予測システムが考案された.音響的手法の利点としては,地表面の変動が現れる前に斜面の内部変動の音を計測して,地すべりを予測できることである.

 昨年度の地すべり現場計測において,センサを単管パイプに取り付けた計測方法のノイズ対策として,スポンジを表面に巻いた三角コーンを上からかぶせて使用していた.しかし,この対策方法では,降雨音の影響により地中音から地すべり予測を行うことは困難であることがわかった.そこで,今年度はセンサをより着目する音源に近づけ,ノイズから遠ざけるために,単管パイプを用いずに,センサを地中に直接埋めることを考えた.さらに,降雨音という従来の計測方法の最大の問題点が,センサを地面から60cm程度の深さまで埋めるか,50cm程度埋め防音対策を施すことによって,地上で計測されるノイズレベル程度,もしくは,雨の程度によればそれ以下にまで影響を抑えられることがわかった.

 次に,大規模な地すべりが発生する直前に,地表面もしくは地中に変動が現れた場合,草の根が切れる音が発生することが考えられる.そこで,この根切れ音の特性を調べ,地すべりの予測につながるかどうかを検討した結果,80Hz付近と100Hz付近で卓越していることがわかった.これは,平成12年度に行われた新潟県新井市大字長沢よしお沢地すべり現場計測において計測された根切れ音と思われる音と非常によく似ている.したがって,根切れ音から地すべり予測を行うことは,一つの判断基準として,有効なのではないかと考えられる.また,本研究で使用しているセンサにおいて,草の根切れ音とノイズの区別ができる有効範囲は半径2m以内であった.

 木の根切れ音は草の根切れ音と比較して,根の太さの違いから,エネルギーが非常に大きく,センサの有効範囲が広がることが考えられる.検証した結果,ノイズとの区別ができるセンサの有効範囲は半径9m以内であった.しかし,草の根切れ音とは異なり,音源からセンサまでの距離が増加すると,卓越する周波数も200Hz付近から80Hz付近にまで変化することがわかった.地すべりを予測する際には,木の根切れ音に着目することにより,一つのセンサが負担する面積が広がるため,現場を広範囲に計測することができる.

今後の課題としては,地すべり現場計測による現場データの蓄積と,地すべりの前兆現象となる地中音のさらなる解明が必要であると考えられる.