田村 曜

カラー画像による斜面監視システムの精度向上に関する研究

鳥居 邦夫

我が国では、全国各地で岩盤崩壊や土砂崩れ等の斜面崩壊による事故が相次いでいる。これを打開するため、現在では崩壊の前兆を捉える手段として様々な斜面監視システムが研究・開発されている。このような中で、標柱による移動量計測システムや伸縮計による地盤収縮変動量観測等の現行の斜面監視方法と比較して、安価で、機動性のある、遠隔地での無人自動監視を可能とする事を目的として、本研究室ではCCDカメラを用いた斜面監視システムを開発した。しかし、このシステムは監視対象である斜面にターゲットを設定する必要があり、その設置や撤去には多大な負担と危険を伴い、あまり機動性の高いシステムとは言えなかった。このため、一昨年度までにカラーCCDカメラやデジタルカメラにより撮影されるカラー画像を用いることで、モノクロ画像では難しかった斜面上の自然物を従来のターゲットの代わりに用いることを可能にし、斜面監視システムのターゲットレス化が図られた。また、昨年度の研究により、日照の影響を抑えた代替ターゲット抽出が可能となった。しかし、その計測精度は悪く、崩壊の前兆現象である微小な変化を捉えるには十分でなかった。
そこで本年度は、多変量解析の一手法である主成分分析処理を導入することにより、代替ターゲット領域と背景領域の色差を拡大し、ターゲット計測精度を向上させることを目的とした。また、システムの適用範囲を広げる意味で、どのような代替ターゲットを選んでも抽出可能にする事も目的とした。本年度は昨年度までに引き続き自然石を代替ターゲットとして用いて抽出処理、連続計測を行った。
本研究による代替ターゲット抽出法は、主成分分析処理と判別分析処理を組み合わせたもので、代替ターゲット領域の特徴と主成分分析処理により行い、その後、判別分析処理によって代替ターゲット領域と識別するというものである。連続計測時には画像毎に主成分計算と判別計算を繰り返しながら代替ターゲットを抽出し、重心座標を算出した。主成分分析処理を用いた場合の抽出結果は、判別分析処理のみの抽出結果よりも精度良く抽出できた。全ての代替ターゲットにおいて同等の精度で抽出することはできなかったが、今回用いたどの代替ターゲットについても計測精度が向上した。
結論として、主成分分析処理を用いることで計測精度が向上し、システムの適用範囲を広げることができた。