田中 良哉

I型部材への統計的エネルギー解析法の適用性に関する研究

宮木 康幸


橋梁を電車が走行するときの騒音は,走行音と固体伝搬音とに大別される.ノイズとして卓越するのは固体伝搬音であり,環境問題が重大視される現在では橋梁からの固体伝搬音が環境に関する新しい問題としてクローズアップされるようになってきている.一般的に構造系の振動では,応答が大きくなるのは低次モードであり,有限要素法(FEM)・境界要素法(BEM)などにより解析されている.しかしながら,固体伝播音は可聴周波数域全体(20Hz〜20000Hz)に広がるので,高次モード域までの解析が必要となり,従来の手法では解析が困難となる.そこで,中・高周波数を得意とする統計的エネルギー解析法(SEA)の適用性を検討する.

SEAに関する研究として昨年の研究では,薄板をZ型に折り曲げたものを解析モデルとし,FEM・SEA・実験を行いある境界を決め,それ以上ならSEA,それ以下ならFEMが適しているという結果が得られている.しかしながら,モデルの形状が変わると損失係数やモード数などのSEAパラメータが変わってくることが予想され,一概にそうとは言えなくなる.そこで本年度は,実構造物に多いI型モデルを用いてFEM,SEA,さらには音響実験を行い,結果の比較・検討を行った.

SEAを行う際,内部損失率(ILF)は昨年の研究で得られた係数と鋼の実験式から得られた係数を用いた.結合損失率(CLF)は,エネルギー透過率をL字型とT字型を用いた.要素分割方法は,3分割(上フランジ,ウェブ,下フランジ),5分割(上フランジ÷2,ウェブ,下フランジ÷2),6分割(3分割型÷2)を行って解析した.FEMは,上フランジ,ウェブ,下フランジを各100分割の計300要素にメッシュを切り解析を行った.

解析と実験の比較検討を行った結果,オクターブバンド中心周波数31.5Hz以下では,SEAの精度はあまり良くなく,FEMで解析するのが妥当であるとわかった.一方63Hz以上では,SEA結果と実験結果の誤差が上フランジ,ウェブ,下フランジ全てほぼ3dB以内であり,十分な精度が得られたといえる.そのときのILFは鋼の実験式から得られた係数を使用し,CLFはエネルギー透過率をT型とみなして算出したものを用い,要素分割は5分割型で行った.よって,SEAでI型部材を解析するときは,これらの諸係数を設定し5分割型で解析を行えば,63Hz以上は十分適用可能であると考えられる.