岩貞 直人

バス優先施策の受容意識を考慮した手段選択モデルに関する研究

 
松本 昌二,佐野 可寸志

自動車交通による通勤渋滞や交通公害が深刻さを増している現在において,通勤時の公共交通利用を促進する社会体制を整える必要があり,構造的な施策としてバス優先施策の実施が必要であると考えられる.しかし,このような施策の導入時には,それにより不利益を被る自動車通勤者等からの反対が生じ,導入が円滑に進んでおらず,施策の効果や社会的な公平性について理解を求めるような心理的方策を取り,施策への受容意識を高めることが必要である.
そこで,本研究では心理的方策の効果を評価するために,施策の公共受容に関する意識の因果構造を明らかにし,受容意識という心理的要因を考慮した交通手段選択モデルを構築することを目的とする.研究対象のバス優先施策としてはバス専用レーンの導入・取締り強化とバス事業者に対する国や自治体の補助金交付に着目し,新潟市中心部に通勤する会社員に対してアンケート調査を実施し,バス優先施策の受容意識を規定する要因とその因果構造の分析を行った.これより,心理的方策によって基本的な環境意識を高めることで,バス施策の受容意識を高めることが可能であることを明らかにした.また,心理的要因を考慮した交通手段選択モデルを構築し,バス優先施策の受容意識を高めることによって車利用の減少を促すことができることが分かった.以上の結果より,一般的な環境意識を高めることによってバス優先施策に対する受容意識を高めることが可能であると共に,車利用の減少をも促すことができることが明らかとなった.さらに,感度分析より,費用や時間を変化させてバスの選択確率を上昇させる構造的施策と,意識を変化させてバス選択確率を上昇させる心理的方策の影響の比較を行い,心理的方策が交通手段選択に与える影響の有効性を検証した.
一方,インドネシアのジョグジャカルタ市におけるアンケート調査により同様の分析を行ったところ,心理的方策は車利用をバス利用へ促す方策として有効ではなく,バスのサービス水準を向上させる構造的施策の方がバス利用の選択に与える影響が大きいことが分かった.
以上より,社会的に発展途上にあるインドネシアような地域では,構造的施策が交通手段選択に与える影響は大きく,一方で発展した日本のような地域では,構造的施策に限らず,バス施策の受容意識を高める心理的方策も交通手段選択に影響を及ぼすことが明らかとなった.