環境材料科学研究室  中村 努

固体酸化物燃料電池における高性能空気極としてのランタンニッケル鉄酸化物の特性評価

指導教官:佐藤 一則 助教授


 本研究では、固体酸化物燃料電池(SOFC)の発電効率を高めるために必要な、炭化水素系燃料の完全酸化反応を目的とした。そのためには、従来よりも低い温度において十分な発電能力を得ることが必要である。従って、新しい空気極材料として、La(Ni,Fe)O3(LNF)に着目し、その電極性能を評価した。LNFはペロブスカイト型酸化物であるLaNiO3のBサイトを占有するNiイオンの一部を、Feイオンで置換した物質である。LaNiO3はFeイオンとの置換を行うことで、高い導電率と高温での相安定性を示す。LNFは、従来、空気極として用いられてきた (La,Sr)MnO3(LSM)よりも酸化雰囲気中での導電率が高く、熱膨張係数が固体電解質YSZ(Y2O3-ZrO2)に非常に近い。LNFの電極性能評価のため、空気極にLNFを用いたセルを作製し、放電特性および分極測定を行った。比較のために、(La,Sr)MnO3(LSM)を空気極に用いたセルも作製し、比較測定を行った。また、発電時のLNF微細構造変化を把握するために、X線回折(XRD)測定および走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察を行った。LNFを空気極に用いることで、従来空気極(LSM)使用時よりも発電性能が向上した。また、カレント・インタラプト法による分極測定から、LNF使用時におけるカソード過電圧および分極抵抗の低減を確認した。これらの結果は材料の持つ導電率以外に、固体電解質に酸化物イオンを送る酸化物イオン供給能の点で、LNFがLSMよりも高いためと思われる。発電前後のLNF結晶相の状態、および微細組織の変化を捉えようと、XRD測定やSEMによる観察を行ったが、明確な差異は確認できなかった。これは、LNFが本実験環境下における作動温度(800 ℃)付近で、その結晶状態などが変化しないことを意味している。だが、LNFは固体電解質(YSZ)との反応性が高く、1000 ℃以上でYSZと反応し、LNFよりも導電率の低い副生成物を生成することを確認した。また、1100 ℃では、LNF相が検出されず、代わりにペロブスカイト酸化物LaFeO3の相が検出された。LaFeO3はLNFよりも導電率の低い物質である。したがって、1000 ℃以上の温度でLNF空気極のセルを発電に用いると、発電性能が低下すると思われる。しかし、これらの問題は1000 ℃以上で発生するため、800 ℃付近ではほとんど問題にならないと考えられる。以上の結果より、La(Ni,Fe)O3がSOFCの低温動作に対して十分な空気極性能を示す新しい電極材料であることを明らかにした。